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23.合コン(片桐side)

後日、俺は佐野から送られてきた住所を頼りに、カラオケ店まで足を運んでいた。 「ソウさん!来てくれたんスね~!」 入口前で手を振る佐野と、その隣に立つ黒崎の姿がすぐに目に入る。 「片桐さん、お久しぶりです」 黒いシャツに黒いズボン。 相変わらず全身黒コーデの黒崎が、穏やかに微笑む。 「ああ。一ヶ月ぶりか」 「片桐さんがこういうイベントに顔出すなんて、意外ですね。例の彼は、もう大丈夫なんですか?」 「違う。来たくて来たんじゃない。断る前に通話を切られただけだ」 俺は、横でニコニコしている佐野をギロッと睨む。 「ま、まぁまぁ!いいじゃないですか!ソウさん今まで合コン出たことないでしょ?もしかしたら、めちゃくちゃ楽しいかもしれないっスよ!」 「そうかな。好きな人がいる状態で参加する合コンが、楽しいものとは思えないけど」 「そういうこと言わなくていいんだよ、黒崎っ!」 そんなやり取りをしているうちに、佐野の同僚たちも集まり始め、俺たちはカラオケルームへと向かう。 部屋の中では、既に女性陣が揃って待っていた。 「男性陣、遅れてすみません!今日はよろしくお願いします!」 「いえいえ~。こちらこそ、お願いします〜」 女性たちの姿を見るなり、佐野とその同僚たちの顔が一気に緩むのがわかった。 ──それから1時間後。 気づけば、俺の周りには女性が数人集まり、囲まれる形になっていた。 「片桐くんって、本当に彼女いないんですかぁ?」 「めっちゃカッコイイよね~。モデルさんかと思った!」 香水の混ざった強い匂いに、少しだけ頭がクラクラする。 「……すみません。ちょっと」 俺は立ち上がり、カラオケルームを早々に出る。 トイレへ向かい、意味もなく手を洗いながら、静かに息を吐いた。 過剰なボディタッチ、露出の多い派手な格好に、遠慮のない質問。 合コンの、一体どこが楽しいんだ。 俺には到底…理解できない。 大体、俺はもっと、上品で、 『綺麗だね』 ──そう、星七さんみたいな……。 「あれ、片桐くん……だよね?」 突然耳に飛び込んできた声に、思考が中断される。現実に引き戻された俺は、反射的に後ろへと振り返った。 すると、そこには妄想の中の張本人が立っていた。 「……星七さん?なんでここに」 艶のある黒髪を揺らし、ラフなシャツにジーンズ姿。星七さんは俺を見て、驚いたように目を見開いていた。 「え?ああ、俺は友だちとたまたまここに来てて…」 「そうなんですか?」 口では冷静を装いながらも、内心はかなり動揺していた。 「ひとまず……廊下に出ましょうか」 俺の提案に、うんと星七さんは小さく笑って頷く。 ……なんか気のせいか、星七さんから甘い匂いがする。 香水か?どこのだろ。 髪、触ったら柔らかそうだな…。 「ん?」 「あ。いえ」 廊下へ出た瞬間、ぱっとこちらを振り向く星七さんにどきりとする。 (……困った…どうやら大分キテるらしい……)

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