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24.鉢合わせ(片桐side)
「見たことある後ろ姿だなと思って、まさかと思って確認したら片桐君で、すごくびっくりしたよ」
廊下に出て話しながら、屈託なく笑う星七さんの様子に、俺は自然と口元が緩んだ。
「俺もです。部屋どこですか?」
「404、すぐそこだよ」
「俺らは407です。偶然過ぎますね」
2人で笑いながら会話をしていると、後ろからふと声がかかった。
「星七、お前こんなとこで何して……」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには星七さんの友人──藍沢さんが立っていた。
「え、なんで片桐壮太郎がここに?」
藍沢さんの眼鏡の奥の瞳が、俺を見てわずかに見開かれる。
(……つーか、なんでフルネー厶?)
「あっ、藍沢。それがさっき偶然会ってさ!片桐君もプライベートでここに来てるみたいで」
無邪気にそう説明する星七さんの横顔に、俺は少しだけ気まずさを覚えて視線を逸らした。
…合コンで来てるってこと、星七さんに言いたくないな。
「ああ。そうだったんだ」
星七さんの話を聞いた藍沢さんは、何やら腕を組んで俺を見てきた。まるで品定めするかのような視線を向けてくる彼の目を、俺も逸らさず見返す。
妙な沈黙が流れる。
「……えーと。じゃあ、そろそろ部屋に戻ろうか」
俺たちの様子を見て、何かを察したように星七さんが優しく声をかける。俺はそれに軽く会釈し、その場から立ち去ろうとした──が。
「あれ、何やってるんですか?こんなところで」
今度は、偶然部屋から出てきた黒崎と鉢合わせる。
俺の後ろに視線を向ける黒崎に気づき、仕方なく事情を説明する。
「――へえ。たまたま偶然、彼と居合わせたと…」
「ああ。…ほら、俺たちも早く部屋に帰っ──」
「そちらはおふたりでお楽しみ中ですか~?」
部屋に戻ろうとする俺の傍らで、突然笑顔でそんなことを言い出す黒崎に気づき、片眉を寄せる。
「おい、何の真似だよ」
思わず顔を寄せて小声で囁く。
「だって、あれ片桐さんの意中の人じゃないですか。このまま返しちゃっていいんですか?」
笑みを浮かべたまま、視線だけちら、とこちらへ向けてくる黒崎に、俺は一瞬言葉を詰まらせてしまう。
俺の様子を見た黒崎は星七さんたちの方へ向き直り、明るい声で言った。
「あの~、よかったら、おふたりもこっちの部屋に来ませんか?407号室です。まだ始まったばかりなので」
黒崎の声かけに、星七さんが驚いたように目を丸くする。
「え、いいんですか?」
「人数は少し多めですけど、“色々と”楽しめると思いますよ」
にっこりとした顔で誘いをかける黒崎を、俺は横目で見る。
(…ただの“合コン”だろ…)
「どうする?行ってみようか?」
星七さんにそう尋ねられ、渋々といったように、藍沢さんが頭を縦に頷かせていた。
……何だか、妙な展開になってきた。
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