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25.騒動(片桐side)

「初めまして、星七です」 「藍沢です。どうも」 まさかこんな形で、またこの2人と顔を揃えることになるなんて。 俺はその光景を、どこか現実味のない気持ちで眺めていた。 星七さんは笑顔でテーブル席に腰かけ、藍沢さんはぶっきらぼうに挨拶を済ませ、早々に足を組んだ。 「は、初めまして〜〜」 女性陣のテンションが一気に跳ね上がる。 それも当然だ。 星七さんの中性的な甘い顔立ちに、藍沢さんのクールで整ったルックス。 このふたりが、周囲の目を引かないわけがない。 「ちょっとソウさんっ!なんでこの2人ここにいるんですかっ?」 「俺じゃねぇよ」 隣に座る佐野は、不満そうに顔をしかめている。 やがて、誰かが言い出したのか、王様ゲームが始まった。 「じゃあいくよー!王様だーれだ!」 「はーい、私でーす!」 わいわいと盛り上がる中、俺は無意識に星七さんを見ていた。 (楽しそうに笑ってる……) 最初は、この展開どうなんだと思っていたが、星七さんの楽しんでいる姿を見ると、これで良かったのかもしれないと思ってしまう。 あの祭りの日の彼は、どこか心から楽しめていないように見えたから。 「じゃー、1番と5番がキスをする!」 「あ、1番俺だ」 不意に、星七さんがくじを覗いて顔を上げる。 「えっ5番だれっ!?」 と、一斉にざわつく女性陣。 しかし、声を上げたのは、星七さんの隣に座っていた人物だった。 「俺みたいだな」 ぱっとくじの番号を見せる藍沢さんに、会場は今日1番の盛り上がりを見せる。 ……つーかさっき、”1番と5番がキスをする”とか言ってたような。 ――つまり。 「流石に男同士でキスは…無効だよね」 戸惑いながら周囲に目を向ける星七さんの腕を、藍沢さんがぐっと掴んだ。 「なんで?別にいいだろ、キスくらい」 藍沢さんの言動に星七さんの瞳が泳ぎ、激しく動揺しているのが伝わる。女性陣は、きゃーっという耳が痛いほどの黄色い声を上げて、2人の様子を見守っている。 ……まさか、本当にするのか? 俺は、顔を傾けた藍沢さんが、迷いなく星七さんに近づく瞬間を目に捉える。 その瞬間、 ――バンッッ!! 右手が、いつの間にかテーブルを強く叩いていた。 ついさっきまで騒がしかった室内が、まるで嘘だったかのようにしんと静まり返る。 「ソ……ソウ、さん…?」 佐野の俺の様子を窺うような声を耳にして、 そして――星七さんの俺を見つめる、驚いた顔を目に映す。 「……悪い、俺先帰るわ」 それだけ言い残して、俺はカラオケルームを後にした。

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