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27.引き止められる声
いつの間にか、掴みかかってきた男たちが道端に倒れ込んでいる。
目の前に広がる光景に、俺は驚いたまま立ち尽くす。
「まだやるのか」
片桐君の低い声が響く。
先ほどまで威勢のよかったヤンキーたちは、顔をしかめて舌打ちしながら、その場を後にする。
全員が去っていくのを見届けたあと、片桐君はくるっと俺の方に振り返った。
「怪我ないですか?」
穏やかに歩み寄りながら、俺の様子を窺うように覗き込んでくる彼。
俺は何となく、近い彼の顔を直視することができず、目を横に逸らす。
「へ、平気…!それより、巻き込んでごめん…。ありがとう。片桐君こそ、怪我ない?」
「俺は平気ですよ」
片桐君は自分の腕を軽く払いながら、いつも通りの落ち着いた顔をしている。
見たところ、傷や痣のような痕はない。
「…片桐君って、強いんだね」
そんな雰囲気、というかそんなイメージは出会った頃から確かにあったけど、あくまで想像上でしかなかったから、驚いた。
「全然ですよ」
片桐君は、夏祭りの射的のときのような軽さで、受け流すようにふっと薄く微笑む。
それより。と、片桐君が言う。
「もしかして…俺のこと、探してくれてました?」
じっと俺を見る彼の視線に、俺はいくつか瞬きを繰り返す。
「もちろん。だって、多分俺のせいで、片桐君不快な気分になって出て行ったんだろうし」
「え?」
「自分の友達が、あんなふうに突然男同士でキスなんかしようとしてたら……普通、気持ち悪いよね」
「いや。そんなふうには…別に」
片桐君は俺と目が合うと、視線を他所に逸らした。
「……。俺、そろそろカラオケ店に戻るね」
会話が途切れ、俺は目線を下に落とす。
ぎこちない空気のままそう言葉を残して、俺は踵を返そうとした。すると、
「……待って」
後ろから、彼の声に止められる。
近くの居酒屋から賑やかな笑い声が漏れ、遠ざかるバイクの音がする。
濡れたアスファルトには、夜の街の光が滲んでいた。
「星七さんは、戻る必要ないんじゃないですか。最初から、俺らが急に誘ったことだったし」
「え?」
通りすがる酔っ払いサラリーマンの笑い声にかき消され、彼の声がよく聞き取れない。
「……だから」
片桐君が一歩、俺に近づく。
先ほどより近くにある彼の顔を、俺は黙って見上げた。
街灯に照らされた彼の姿は、やっぱり、誰が見てもイケメンと言うだろうと思った。
耳のピアスがお店の灯りに照らされて、きらきらと光っている。
「……合コンじゃなくて、俺と、どこか違う場所にでも行きませんか」
凛とした眉に射抜くような目、耳に残る低い声。
なぜかそれら全てに、心の奥が妙に騒いで仕方なかった。
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