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32.昔の友人
車に戻ると、藍沢はすぐに冷房をつけながら「暑っちぃ」と言った。車内に冷たい空気が回るにつれ、張り詰めていた気が緩んでいく。
「つーかさ。せっかく車で出てるんだし、どっか寄ってこうぜ」
まずは昼飯でも行こうと誘う藍沢に、俺はシートベルトを締めながら渋々うなずいた。
「うわっ」
藍沢が勢いよく車を発進させ、俺は思わず体をのけぞらせた。
「お前…」
「そのあとは近くの大型ショッピングモール」
「は?なんで」
「アイツとこの間ゲーセン行ったんだろ?じゃあ俺とも行こうぜ」
…何言ってんだか。口調こそ軽いが、言葉の奥にある彼の感情を感じ取っていた。隣で運転する藍沢を見ながら、俺はふっと笑った。
「仕方ないなあ」
俺たちはラーメン屋で昼食をとったあと、予定通りショッピングモールに向かった。
「スタバ行こうぜ、確か3階」
「ついでに服見ないか」
「見ようぜ〜」
喫茶店に服屋、そしてゲーセンと、次々と店を回りながら、俺たちは何度も笑い合った。
「あ〜!また負けたっ」
ゲーセンで項垂れる俺を見て、藍沢が笑う。
「いい加減、降参しろって」
「冗談。勝つまでやるに決まってるだろ、次はマリカ!」
「望むところ」
余裕の笑みを浮かべる藍沢より先にと、駆け足で向かっていると、ふいに名前を呼ばれる声が背中に届いた。
「こんにちは。星七さん」
聞き覚えのある声音に、動きが止まる。
振り返ると、そこには懐かしくも見覚えのある顔ぶれが並んでいた。
その中心に立っていたのは、キャップをかぶったつり目の黒髪の彼。
彼の姿を目にした瞬間、心臓がドクンと大きく鳴った。
「…アキの、友達の」
生前アキと仲の良かった、バスケ部の友人たちだ。
「そうです。覚えてたんですね」
つり目の彼が言う。
俺は彼らの前で足をとどめ、静かに視線を落とす。
「さっき、俺らアキの墓参りに行ってきたんです。全員で線香あげて、あいつを想って手を合わせました」
「……そう」
すると、彼が一歩、俺との距離を詰める。
顔を上げると、その目が真っ直ぐに俺を射抜いていた。それは敵意を含んだ、尖ったまなざしだった。
「つーか、何でそんなふうに平然と笑ってられんの?」
「…」
「あの時、道路に飛び出したあんたを庇おうとしなかったら、あいつはまだ生きてたんだ。なのに、あんたの身勝手な行動で、アキは…」
「うるせーよ」
硬直したまま動けずにいた俺の隣に、藍沢が静かに立つ。
「寄って集って、なんなんだよ。もう何年も前の話だろ。こんなことを…まさかあいつが望んでるとでも言うのかよ」
「藍沢…お前は“あの現場”にいなかっただろ。俺らはあそこにいたんだ。何も知らないヤツが、この件に一々首突っ込んでくるなよ」
言葉の応酬の中、藍沢の拳が強く握られているのが目に入る。
俺は彼らに向かって、すっと頭を下げた。
「…ごめん」
こんなことで許されると思っているわけではないが、他にどうすればいいのか、分からなかった。
アキの友人たちはまだ何か言いたげな様子だったが、それ以上言葉を重ねることなく、踵を返して去っていった。
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