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34.謝罪

トイレから出た俺は、辺りをきょろきょろと見回した。 えーと、藍沢どこら辺にいたっけ…。けれど、いくら探しても藍沢の姿は見つからない。 おかしいな…。 「ねー、さっきの見た?店の中で殴り合いの喧嘩してるの、初めて見た~」 すれ違った女性の話が耳に入り、思わず足を止める。 け、喧嘩…?しかも店内で…?まさか…。 〝星七さん〟 片桐くんじゃないよな……。 そう思っていた矢先、向こうから歩いてくる集団が視界に入る。俺はびくりと体を強張らせた。 さっきのアキの友人たちだ―― あれ?真ん中のキャップの彼、顔が傷だらけのような…。 「星七さん、今日はすみませんでした」 すれ違いざま、一番端にいた彼がそう言って頭を下げた。俺は驚きながら、去っていく彼らの背中を見送った。 「やっと見つけた!」 駐車場に停めた車の中、藍沢を見つけた俺は助手席のドアを開ける。 「ったく、戻ってるならLINEの一本くらいくれよな。結構探したんだぞ」 「……ごめん」 運転席に座りながらえらく素直に謝る藍沢に、俺は少々拍子抜けする。 「まあいいんだけどさ…。だってなんか、俺のために喧嘩してたっぽいし」 助手席に座り、冗談めかしく言って顔を向けるも、藍沢は顔を下に向けたままだ。 …この反応、やっぱりか。 「まさかと思ったけど、まじで藍沢が店内で喧嘩した張本人様かよ。人がトイレ行ってる間に」 「…」 「つうか何でお前は無傷なんだよ…」 少しの間を置いてから、藍沢は「うるせぇ」と言いながら車のエンジンをかけた。 反抗期の子どもか、お前は。――でも……。 「…ありがとう」 ハンドルを握る藍沢を横目に、俺は小さな声で呟いた。

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