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36.告白
深夜の人通りの少ない公道を、片桐君のバイクに乗って走る。
「大丈夫ですか?」
赤信号で止まったとき、前にいる彼が振り返らずに尋ねてくる。
「大丈夫!」
エンジン音に負けないよう、少し大きめの声で返した。
「もう少し掴まっててください」
信号が青に変わると、バイクは再び滑るように走り出す。
やがて住宅街を抜け、山道へと入っていった。ゆるやかなカーブと坂道を、上へ上へと登っていく。
…一体、どこに向かってるんだろう。
しばらく走った先、人気のない駐車場で片桐君はバイクを停めた。
「降りられますか?」
彼の声に、俺はハッとして慌てて腰に回していた手を離す。
バイクから降りると、彼が俺のヘルメットを外してくれた。
「ありがとう」
短くお礼を言って、俺たちは近くにある木製の階段を並んで登っていく。
「上に何かあるの?」
「まあ…そうっすね。星七さんが気に入るかは分からないですけど」
片桐君はそう言って少しだけ笑った。
階段を登りきった先には、小さく開けた空間があった。
そこに足を踏み入れた瞬間、視界に広がったのは、柵の向こうにきらきらと広がる夜の街並みだった。
「うわぁ…」
思わず声が漏れる。
俺は柵に手をかけ、その光景を見つめた。
隣では、片桐君が同じように柵にもたれかかっている。
静かに、街を見下ろしていた。
「よくここに来るの?」
「そうですね…言っても、そんな頻繁には来てないかもですけど」
「そっか」
俺は再び、視線を夜景へと戻した。
広大な美しい景色を眺めていると、自分の抱える悩みが、不思議とちっぽけなものに感じてくる。
「…今日、すごく仲が良かった友人の命日だったんだ」
ぽつりと、呟くように口を開いた。
「彼は所謂人気者で、友だちが多くて、誰にでも優しくて…とても誠実な人だった」
片桐君は、ただ静かに隣で、俺の言葉を受け止めてくれる。俺は少し、緊張していた。
「だけどある時…、俺たちは初めて”ある喧嘩”をした。俺はショックで、感情のままに突っ走ったんだ…。向こう側から、トラックが走って来るのも確認せずに」
俺は柵を握る手に力を込める。忘れられない記憶が頭に蘇り、瞳が微かに濡れる。
「気づいたら…友人である彼は、頭から血を流しながら道路に倒れてた。彼は俺を庇って、……息を引き取ったんだ」
俺は頭を垂れて、唇を強く噛んだ。
そうだ、あの日、俺が……彼を。
「――俺が彼を、殺したんだ」
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