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第4章 39.過去(藍沢side)
中学2年のとき、俺は親の都合で転校した。
転校したての俺に、誰も寄りつこうとはせず、それどころか、眼鏡を外したときの目つきが怖い──そう影で言われているのを耳にしていた。
だけど。
「ねぇ」
席にひとり座る俺に、初めて声をかけてくれたのは、同じクラスの星七だった。
「このペンケース、いいね」
星七はにこっと笑って、机上に置かれた俺のペンケースを指で示した。それは、当時使っていたキャラクターもののペンケースだった。
「…ああ。これ」
「なんか、藍沢くんと似てない?」
「…は?」
そう言うと、星七は可笑しそうにひとりで笑い出した。
彼をきっかけに、俺は少しずつクラスに馴染んでいった。
「藍沢〜」
すっかり友だちになった星七は、いつも笑顔で声をかけてきた。そしてそんな彼には、俺よりもずっと仲の良い友人がいた。
「おー、藍沢!」
それが、アキだった。
アキは星七より幾分も背が高く、バスケのうまいヤツだった。
「なあ、藍沢の眼鏡貸して」
「なんで」
「いいからいいから」
アキは俺の眼鏡をさっと奪ってかけてみせた。
「あははははっ、やばいやばい、アキやばいって、お腹痛い!」
眼鏡をかけたアキを見て、俺の机の前で体をくねらせて爆笑する星七。
「星七、お前笑いすぎだろ。お前もかけてみろよ」
「えー」
アキに言われて渋々眼鏡をかける星七を見て、今度は俺とアキが吹き出す。
「やばい、やばいって!アハハハ」
「ったくよ〜」
眼鏡を返されて掛け直すと、ふと真っ直ぐな視線を感じた。
「やっぱ藍沢が一番似合うな」
「そりゃ、自分に似合う眼鏡選んでるしな」
「…だけど俺、眼鏡かけてない藍沢の顔も、すごく好きだな」
眼鏡越しに俺の目をのぞき込むようにして言う星七の、何気ない言葉。俺は無意識に大きくなった瞳を、彼からぱっと逸らした。
「…何だそれ」
「あっ、藍沢が照れてる〜!」
「照れてる〜〜」
いじってくるアキと星七の楽しそうな笑顔を見て、俺もつい笑みをこぼした。
……けれど、3人で笑っていられる時間は、そう長くは続かなかった。
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