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44.雑念

夏休みという長い休みが終わり、俺は今日も変わらず、講義を終えたあとにサークルとバイトをこなし、電車に揺られていた。 ただひとつだけ、以前より変わったこともあるけれど。 「片桐君、あの…そんなにくっつかなくても、大丈夫だよ。心配してくれてるのは有難いけど」 ほぼ満員電車の中、ドアに片手をついて俺の前に立つ片桐君に向かって、愛想笑いをしながら告げる。 「いえ、どこにあの男がいるか分からないですから。あとは人が多すぎて、どうしてもくっつかざるを得なくて…。狭いですか?」 答えようとした瞬間、電車が大きく揺れ、片桐君の胸に体を預けるような形になってしまう。 「あっごめん…!」 俺は慌ててドアに再び背をつけて立つ。 右側の視界のすぐ傍には片桐君の腕があり、目の前には片桐君の首元から胸あたりが見える。 そういえば、この間見た片桐君の体、すごく引き締まってた気がするな…。 ルックスも良くて体も良いとか、一体何事…。 ……もし、あのまま片桐君に色々されてたら、どんな感じだったんだろ……。 ちら、と顔を見上げると、ちょうどこちらを見下ろす彼の視線とぶつかる。 「どうかしました?」 「…う、ううん!」 俺は全力で首を横へと振った。 卑猥なことを考えている自分が、急に恥ずかしくなった。 片桐君は俺のために、ほぼ毎日熱心に痴漢から身を守ってくれてるというのに。 早く去れ、雑念…!

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