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46.執着(藍沢side)

――ドスッ 矢が的に刺さる音が響いたあと、射場に再び静けさが戻っていく。 俺は息を吐き、弓をゆっくりとしたに下ろした。 「今日も全射中か。藍沢ってほんと上手いな」 練習が終わり、袴の腰板を外していると、同じ学年でサークル仲間の植木が近づいてくる。 Tシャツ姿の彼は、額の汗をタオルでざっくり拭きながら、服の裾をつまんで風を送っていた。 「こんなに弓射る技術もあって頭もそこそこ良くて、見た目までいいし」 「そこそこってなんだよ」 「あははっ、冗談冗談!」 いつも通りの冗談めいた雑談を交わす。 更衣室の隅では、他の部員たちがざわつきながら着替えている。 「ま、それにお前は、残念な方のイケメンだけどな」 植木はちら、と俺を見ながら言った。 「…俺には理解不能だね。一人の人間にそこまで執着するなんて、ましてや男に」 俺は彼の話を尻目に、黙って畳んだ道着をバッグにしまった。 「…別に、執着なんて」 「してるじゃん」 ぼそり、呟きながらロッカーの扉を閉めると、横から彼の視線がひしひしと伝わるのがわかった。 「だって“お前ら”、高校の時付き合ってたじゃん。同じ高校通ってたんだし、流石にそれくらいわかるよ。……だけど、お前らの関係はもう――」 「植木」 一歩、彼に近づくと、植木がたじろいだ。 「な、なんだよ」 俺は彼の髪にスっと手を伸ばした。 「…ほこり、付いてた」 ほら、と言ってみせると、どこか調子の狂ったような表情をした植木が、軽く頭を掻いている。 「…てっきり、怒ったのかと」 「え、何に?」 分からず首を傾げると、植木が俺を見てふっと笑う。 「…別に!」 彼に肩を組まれ、戯れていると、後ろから騒がしい声がした。 「なぁ、今日もこのあと皆でぱ〜っと飲みにでも行こうぜ!」 「いえーい!行こ行こー!」 「あ!藍沢は絶対参加なーっ!」 「なんでだよ」 「あはは、藍沢拒否権ねえ〜」 サークル仲間たちと戯れながら、俺は更衣室を出た。

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