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50.負い目(藍沢side)
星七のベッドで目が覚めたのは、眠りに入ってから約3時間ほど経った頃だった。
「あ。起きた?」
ぼうっとした寝起きの頭で時計を確認していると、すぐ傍でベッドを背に座っていたのだろう星七が、こちらへと振り向いた。
……なんだろう、この少しだけ見覚えのある感じ。
ああ、そうだ。昔——
『藍沢』
俺たちは、付き合っていたんだ。
「悪い……寝てた」
体を起こしながら頭を抑えると、ん、と水の入ったコップを渡される。
「酒飲みの介護に慣れるなんて、嫌なんだけど?」
「……すまん」
「ったく〜」
星七はストンとベッドに腰掛けた。
「あんまり酒、飲みすぎるなよ。付き合いもあるんだろうけど…お前、あんまり酒似合わねーよ」
じっと見つめてくる星七から俺は目を逸らす。
「…お前に言われたくない」
「どういう意味だよ」
少々怒った顔をした星七から、似合わない香水の匂いが漂った。
「もし悩みあるなら、何でも言ってくれよ。…俺にできることなら、何でもするからさ」
俺はベッドに座ったまま、瞳を伏せて話す星七の片腕を掴み、引き寄せた。
「な、何するんだよ」
俺の胸に顔をぶつける星七が、ゆっくりと起き上がる。
これほど近い距離にいるのに、ずっと傍にいるのに。彼はいつも、俺ではない男を選ぶ。
「今日、何してた?」
「……え?」
俺は、無警戒な星七の服の下に手を入れる。
後ろからきゅっと胸の突起を摘む俺の腕を、星七が掴む。
「っ…お前また…」
目を瞑り、生理的な涙を目の端に浮かべ、体を震わせながらも、俺の手を完全に止めることまではしない星七。
俺を力づくで押し退けてでも拒まないのは、彼が特別押しに弱いからという理由ではない。
彼は俺に罪悪感があった。俺の軽口を叩いたことでアキが死んだ――彼はいつもそうして、昔の親友にも、友人である俺に対しても、深い負い目を感じているのだ。
俺を受け入れている理由が、俺のことを好きという理由だったらどれほど良かっただろう。どこにも行き場のない恋慕という気持ちだけが、ひとりでに空回りして、彼を求めて暴れまわる。
たった数言話しただけの何の気ない会話が、あのときの気持ちが忘れられず、俺は誰かの言った通り、彼に執着しているんだろう。
彼のお尻に触れると、星七がわかりやすいほど体を反応させた。
「な…なに?」
恐る恐る星七が俺を見つめる。
「“何でも”するんだろ?」
すると、星七は顔を青くさせながら、首を横に振っている。
……この様子だと、どうやらまだ彼と“最後までは”してなさそうだ。いいや、そもそも何もしていないのか…。
それにしても、あの男、星七に本気なんだな…。ゲイには見えなかったが……星七は別とかそういう理由なんだろうか。
星七も、いつかあの男のことが……いや、もしかしたらもう既に…。
「藍沢…?」
でも、あの男に本当に受け入れることができるのだろうか。
過去のことを未だに断ち切れていない星七のことを…。
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