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第6章 60.手放せない過去

「星七くーん。おーい」 「……」 「せ、な、く、ん!」 ビク いつの間にぼうっとしていたのか、俺はレジ横で立つ店長の声にはっと我に返る。 レジ前で待つお客さんの姿を見て、慌てて接客をする。 「星七くん、何かあった?顔もなんだか、前より痩せたように見えるけど…。シフト、良ければ減らそうか?」 「いえ」 心配そうな顔で見てくる店長に、俺は首を横に振る。 「忙しい方が、いいので」 「そう?でも、あんまり無理しちゃだめだよ。頑張ってくれて、嬉しいけどね」 「ありがとうございます、店長」 店長がバックヤードへ向かう姿を見送る。そして、再びレジ前に向き直った時。 「この本ください」 そう言ってお客が渡してきた本のタイトルがたまたま見えた。 “友人の心に寄り添う方法10選” ……うん?なんだこれ。そう思いながら顔を上げた先。 そこには、軽く笑みを浮かべて俺を見る藍沢の姿があった。 「わざわざバイト先まで来るなんて、俺、もしかしてかなり心配かけてる?」 バイトが終わり、藍沢とともに店の自動ドアを出て帰路に着く。 「別にそうじゃねーよ。たまたまこっちに寄る用があったんだ」 そう言ってスっと、藍沢がフラペチーノ風の甘い飲みものを差し出してくる。 「あれ、貰っていいの?」 「今日バイトの給料貰ったから。やるよ」 に、と少し得意げに笑う藍沢に、俺もつられて笑う。 その後、夜道をジュース片手に黙って歩く藍沢を、なんとなく目で追ってしまった。それはひどくクールで、絵になる横顔だった。 出会った時から思ってたけど…背も高いし、顔もかなり整ってるんだよな。 なのに、中々彼女も作らないし、どうなってんだ?と思ったら、……まさかの俺が好きで。 本当に、世の中意味がわからないことだらけだな…と、思う。 「星七」 駅まで向かう道中、藍沢は車道を走る車のライトの光を浴びながら、口を開く。 「……ごめんな」 顔を伏せ、沈んだ表情で話す藍沢。 「え、なにが?」 俺はそれに、眉を下げて笑う。 「あっもしかして、彼に振られたこと?やだな~そんなの気にしてないよ、そもそも藍沢のせいじゃないし!」 それはフォローでも何でもなく、本当にそうだと思ったからだ。 「…俺が悪いんだ」 「は?、何言ってんだ。お前が悪いわけないだろ」 「―ううん」 俺は歩きながら、至って真面目な顔をして首を横に振る。 だって… 「どっちにしたって、…根本的な原因は、俺だし」 俺の過去の軽はずみな言動が、すべての最悪な事態を引き起こしてる。 旧友の事故も、今回の件も、すべて。 それはきっと、これからもずっと俺について回る。 ……まさに、自業自得だ。 「…俺、もういいんだ。彼のことは」 「星七…」 「――つーかさ!暗い話やめよーぜ。せっかく藍沢から奢りのジュース貰ったっていうのにさ」 俺はそう言って、彼に向けて明るく笑いかけた。

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