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61.忘れられない(片桐side)

『片桐くん』 いくら忘れようと思っても、何度も頭に蘇るのは、彼のこと。 朝、俺は自室のベッドで目を覚まし、手で髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。 「ソウさん!こっちです」 バイト終わり、カフェバーに入った俺に向かって陽気に手を振るのは、笑顔をうかべた佐野。 その隣にはお決まりのように黒崎がいる。 「マスター、テキーラひとつ」 そう言いながら、俺は彼らの前の席へと腰を下ろした。 そして足を組むと、向かい側に座る佐野が驚いた顔をして俺を見る。 「て、てきーら?ソウさんそんなの飲めましたっけ…?」 心配げな佐野を無視して、机の上に置かれるテキーラを、俺はぐっと一気飲みする。 「もう一杯」 「うわっ、ま、待ってくださいソウさん!ペース早いですってっ、後から絶対後悔しますよ!それに体に悪いし…。何でそんな度数強いお酒…」 「黙れ」 軽く佐野を睨むと、彼の隣に座っていた黒崎が笑顔のまま、「まあまあ」とすかさず声を入れる。 「何となく何があったかは予想がつきますよ、片桐さん」 でも、と言いながら黒崎が俺を見る。 「自分の苛立ちを佐野に向けちゃ駄目でしょう。彼だって、あなたが心配なんですから」 そうして、しゅんとどこか落ち込むような佐野に、黒崎が何かフォローのような言葉をかけている。 それに、小さく舌打ちをし、2杯目の酒を飲んだ時、店のドアが開く音が聞こえる。 その音を立てて近づく足音は、まっすぐ俺のテーブル席へと向かっている気がした。 「おい」 (…ビンゴ) 声の方へ顔を上げると、そこには、酒を手にやさぐれた俺を、無言でじっと見下ろしている藍沢さんが立っていた。 「あっ前カラオケにいた時の!」 「例の彼の友人の、藍沢さんだね」 佐野と黒崎が口々にそう言う。 どこか真剣な眼差しを向ける彼を見て、俺はガタッと席を立ち上がった。 「話があるんだろ、俺に」 俺はそう言って、店の外へと向かった。

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