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【第2部】第8章 77.幸せの朝と決意
朝、鳥の囀りで目が覚めた。
そっと目を開けると、隣で片桐君が眠っていた。
そういえば昨日俺…彼にあんなことやこんなことをされて、2回も出したんだっけ…。
ベッドから体を起こし、横で眠る片桐君の寝顔を盗み見ていると、だんだん昨夜の出来事を鮮明に思い出す。
(なんか、大人の階段を登った気がする…。)
だけど、俺ばっかり気持ちよくなってしまって、恥ずかしいっていうか、申し訳ないっていうか…。彼に俺からも何かするべきだったよな…。でも何を?
舐めたり…手で、気持ちよくしたり…?
そういやまだ、片桐君の……は、見てないな。でも、一瞬だけ昨日触った感じ、彼“の”は、多分すごく大き……
「星七さん?」
突然聞こえた彼の寝起きの声に、体がびくっと動いた。
片桐君は軽く寝癖のついた茶髪を、タトゥーの入った腕の手でかき上げながら、裸体の上半身を起こす。
「よく、眠れました?」
こちらを向き、微笑を浮かべる彼から、俺はぱっと顔の向きを反対側へと逸らした。
(色んな意味で、彼のことが見れない…!)
そもそも何で片桐君、うえ裸なの!?昨日脱いでなかったよね…!
それに、今思い出したけど、彼ってまだ未成年じゃなかったっけ?全然そんなふうに見えないけど…そうなんだよね。
ああどうしよう…俺、未成年に手を出したことになる…?犯罪?これって犯罪っ?
ていうか……
俺はゆっくり彼の方へと再び振り向く。
(ふ、腹筋割れてる…!)
「何見てるんですか?」
彼の引き締まったお腹をついまじまじと見ていると、彼に軽く笑いながら尋ねられる。
「えっ…いや、だってさっ」
かっこいいって言うか、綺麗っていうか…!
「俺の裸そんなにじろじろ見て……。星七さんえっちだなぁ」
「…!?」
すぐに、ちがーう!と赤面しながら慌てて言う俺を見て、まるで全て見透かしているかのように、片桐君は余裕の笑みを浮かべた。
「…そうだ、黒崎さんから義理のお兄さんのこと聞いたよ。…大丈夫?」
片桐君の家の近くの河原を歩きながら、俺は隣を歩く黒のジャケットを羽織る彼をそっと見上げる。彼は俺の方へ振り向くと、至っていつもと変わらない表情で、ああ、と短く呟く。
「俺は平気です」
ただ…。片桐君はそう言って俺を見る。
「自分のことは、何があっても平気ですけど…」
彼の手が俺の右頬に触れた。
「もし、星七さんに何かあったらって思うと、…怖くて、最近ずっと不安で」
彼の表情に暗い影が差す。
彼が、こんなカオをするだなんて…。
「だ、大丈夫だよ、きっと!」
明るい声色で何とかそう言うと、片桐君は俺の心情を察したのか、微かに笑ってみせた。
「あとは…藍沢さんですかね」
川沿いの芝生に腰を下ろす片桐君が口を開く。
「俺、過去に2人の間にあったことについて、口出しするつもりはありません。…ただ、もしおかしな関係になってるのなら、ちゃんと精算して欲しいです」
穏やかな、けれど力強い彼の瞳が、真っ直ぐに俺を捉えて真摯に言葉を伝えてくる。
「多分、星七さん自身のためにも必要なことだと思うんで」
片桐君……。
「……うん。藍沢と、今度話してみるよ」
それから、そう言って片桐君は少し間を空けた。
「……亡くなった彼のこと、好きだったんですか?」
無意識に、瞳が大きくなる。
俺は彼から、顔を目の前の河のある風景へと移した。
何年経っても、彼とのことを思い出す度、胸が苦しくなる。
「…正直言うと、彼のことをどう思ってたのか、あの事故が起きてからずっと、分からなくて」
俺は、ゆっくりと静かに流れる河を見つめながらつぶやく。
「そういう意味で好きだったのかもしれないし、友人としてただすごく好きだったのかもしれない」
「……」
「どうしても”思い出せない”んだ」
すると、片桐君は腰を上げながら、軽く手で服をはたいて立ち上がった。
「――ひとまず、目先の問題を解決していきましょう」
彼と同じように腰を上げる。
「目先の問題?」
「ええ。俺は義理の兄と、星七さんは藍沢さんと。お互いに逃げずに向き合うってことです」
彼の真剣な目に見つめられ、俺は瞳を小さく揺らす。
逃げずに、向き合う…。
「俺、早速明日会いに行ってきます。義理の兄に」
「えっ?…危ないよ!」
だって、黒崎さんの話では、義理のお兄さんは片桐君のことを人を使ってまで襲わせたんだよね…。
ちら、と目の前に立つ彼を見ると、片桐君は優しい笑顔を浮かべて俺を見ていた。
「そんなに心配そうな顔しなくても、大丈夫ですよ。ちょっと話してくるだけなんで」
「…うん」
俺は彼をただ、信じるしかない。――でも、
片桐君の義理のお兄さんって、一体どんな人なんだろうか…。
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