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79.話し合い
片桐君が義理のお兄さんと会っている時。俺は、最近新しくオープンしたらしいお洒落なカフェがあると聞き、大学終わりの夕方、藍沢とともにその店に訪れていた。
「これすっごい美味しそうじゃない?」
俺たちはようやく案内された席につき、メニュー表を覗く。
「お前苺そんなすきじゃないだろ」
藍沢は薄手のコートを脱ぎながら無表情に言う。
「だってこの店1番のオススメだし」
「それだけで選ぼうとするなよ。つーか…」
藍沢は正面に座る俺を1度も見ることなく、視線を逸らしながら、どこかぎこちなくしている。
「どうかした?」
「どうしたもこうしたも、……何であの男の子分が俺たちと同じテーブルにいるんだよ」
藍沢のそんな声に、俺は小さな丸テーブルを囲んで両隣に座る黒崎さんと金髪の彼に視線を送った。
「あはは…確かに何でだろうね」
左隣に座る黒崎さんは、いつもの全身黒コーデにいつもと変わらない笑顔を浮かべていて、右隣に座る金髪頭の彼は、どこかふてぶてしい態度をしているように見える。初めて会った時に被ってたような気がする黒の帽子は、今日は被ってないみたいだ。
それにしても、ほんと、何でこの2人と一緒なんだろうか…。
「ああ、俺たちのことは気にせず。透明人間だとでも思ってくれていいから」
左隣に腰掛ける、軽やかな笑みを見せる黒崎さんがそう告げる。
透明、人間……。
「つーかさあ、何でこんな女が来るような店好き好んで来たがるわけ?」
右隣に座る、金髪の彼が不服そうにつぶやく。
「えっと、…こういう店あんまり好きじゃないんですか?」
「うん、大っ嫌い」
愛想笑いしながら尋ねた俺に、彼は眉間に皺を寄せながらそう吐き捨てる。…なんか、裏表無さそうな人だな。いい意味でも、悪い意味でも…。
「おい佐野、彼らの趣向に一々口挟むなよ」
黒崎さんが少し咎めるように言う。
「じゃあ俺帰っていい?」
「それは別に構わないけど……あの人にバレたらもう今後口聞いてもらえなくなるかもね」
「な…っ」
あの人…って、多分だけど、片桐君のことかな。
「…あの。注文していいすか」
すると、正面に座る藍沢が、言いにくそうにしてそう言った。
そうだった、まだ頼んでなかったんだっけ。
そもそも今日2人でカフェに来ようと思ったのは、藍沢と真面目な話をしたかったから。だったんだけど、…彼らがいる手前、流石に無理かもな。
「お前結局どれにすんの」
藍沢がトントンと、メニュー表に指を置いている。
「俺はハロウィンフラペチーノ」
「は、子ども」
「ちっがいます〜大人もみんな飲みます〜。寧ろみんな大好きです〜〜。…で、そう言う藍沢は?」
「俺は……そうだな。オレンジパッションフルーツ、かな」
「藍沢って、”実は”お洒落な飲みもの好きだよな〜。キャラに反して」
「おいなんだよ」
「あはは、だって…」
互いに笑い合いながらメニュー表から顔を上げたとき、ふと視線を感じて口を閉じた。
…そういえば黒崎さんたちいるんだっけね。
「2人って、本当に仲がいいんだね」
「えっ」
「あ、ごめんね。透明人間って言った矢先に」
黒崎さんは絶えず笑顔を浮かべている。
「でも、確かに、これは妬いちゃうなあ…。大変ですね、あの人も」
微笑む黒崎さんがちら、と意味ありげに俺に向かって視線を送る。
「じゃ、俺達もそろそろ離れますか」
俺たちのドリンクが運ばれるのを見ると、黒崎さんはそう言っておもむろに席を立ち上がった。
「え?もう護衛しなくていいのか?」
「違う、外で待機」
「うえぇ〜」
「ずっとここに居たら、ふたりだけでしたい話もまともにできないだろうが」
2人が捌けていくのを見送っていると、黒崎さんがふとこちらに振り返り、俺にだけ見えるように口パクで、“ふぁいと”と言って笑うのが見えた。
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