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80.話し合い2
2人が去ってから、俺は運ばれたフラペチーノを口にする。
「うわ、これ美味しい!藍沢も飲んでみろよ」
「星七」
ふと藍沢に呼ばれ、俺は口を付けていたストローから顔を離す。藍沢は置かれたドリンクには口を付けず、向かい側に座る俺をじっと見ている。
「お前、護衛って……一体何の話だ?」
「ああ…別に、大したことじゃないっていうか」
「大したことないのにあの2人がわざわざ来る理由はなんだよ。お前、何隠してる?」
心配そうな顔をした藍沢の顔色を悟り、俺は浮かべていた笑みを消す。
「違う違う!そんな、ほんとに大したことないんだよ。命狙われてるとか、ヤクザに追われてるとか、そんなんじゃないし」
「なら何だよ」
なんて言えばいいのか……。
何となく、藍沢に言いづらいのは、何でなのか…。
「…片桐君のお兄さんが、結構おっかないらしくて。それで多分片桐君は、彼とよくいる俺にまで危害が及ぶんじゃないかって心配してるんだと思う。だから、今日あの2人が来た…みたいな」
「おっかないって…護衛するレベルでやばいのかよ」
眉を顰める藍沢に、俺はううん、と言って首を横に振る。
「過度に心配してるだけだよ、彼が」
あははと屈託なく笑ってみせると、瞳を伏せた藍沢が言う。
「…もしかして、あいつと、ヨリ戻ったの?」
―ドキ
「……うん」
「……そっか」
騒がしい店内とはそぐわないテンションで、俺たちは静かに言葉を交わす。
藍沢はようやく、少し笑いながらドリンクを口にした。
「それで藍沢、俺、話があるんだけど……」
「ん?」
「俺、もう彼に隠し事したり、彼を傷つけるようなことしたくないんだ。だから、お前とは、その……いい友達でいたいっていうか」
「……手出すなってこと?」
藍沢の問に、俺は黙って頭を縦に頷かせた。
「別にいいけど……。―でも、約束はできない」
「え…」
「だって俺、まだお前のこと好きだし」
うっかり手を出す可能性が無いとまでは、言いきれない。藍沢は視線を逸らしながらそう続ける。
俺はそれに瞳を彷徨わせ、頭を働かせる。
じゃあ、どうしたらいい……。行き着く答えは、ひとつしか浮かばない。
「じゃあ……俺たち少し離れる?」
俺は彼の顔を見ずにそう言った。
「…離れるって」
「友達じゃない、ただの他人になるってこと」
ずっと前から分かっていた選択肢。だけど、ずっと選べなかったもの。
片桐君のことを失いたくないと思っているのは本当だ。大事にしたいと思っているのも。でも――
……言ってわかったけど、こんなに辛いのか。彼と、友達ではなくなることは…。
「ごめん、俺」
俺は席を立って、藍沢を残して店を出た。
瞳が潤む気配を感じたからだ。
「あれ、ちょっとあんた、もう出るの?あの男は?」
店を出て歩き出そうとした俺の手首を、外にいた佐野さんに掴まれる。
「黒崎休憩行ってて、俺今ひとりなんだよ。だから、単独行動は今はちょっと控えて――っておい!」
俺は腕を振りほどき、こらえきれずにその場を後にした。
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