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第9章 85.訪問

黒崎さんと一緒にタクシーに乗り、俺は彼らのいる場所まで向かった。 「ここだよ」 タクシーから降りた俺は、先に降りた黒崎さんにそう言われ、顔を上げる。 ……えっ? 飛び込んできた目の前の光景に、俺は思わず目を白黒とさせた。 複雑な装飾が施された金属製の重厚な大き過ぎる門。黒い鉄門の中央には、西洋の紋章みたいな装飾がはめ込まれていて、まるでどこかの貴族の屋敷みたいだった。 門の向こうには手入れの行き届いた前庭がうっすらと見え、格子の間越しに舗装されたアプローチの奥、噴水のようなものもかすかに視界に入った。 「えっと、ここは一体……」 顔を引き攣らせる俺の横で、黒崎さんはいつもと何ら変わりない笑みを浮かばせている。 「あれ、言ってなかったっけ? 片桐さんの家、実業家の名門なんだよ」 「え?」 実業家の、めいもん……? それって、つまり、片桐君は…… 「まさか……お坊ちゃま、的な…?」 「うん。まあカッコよく言えば、彼は“名家の御曹司”ってとこかな」 ――え、ええぇっ!? “そのあと、施設に預けられた俺は、”ある家庭”に引き取られて、しばらくそこに住んでたんです。” あの時言ってたある家庭って、そういうこと!? だけど彼、そんな素振り今までひとつも……。 でも今思い返してみると、確かに片桐君ってヤンキーって割にいつもどこか上品な雰囲気があったよね。 言葉遣いといい。 けどまさか、こんな立派な家の人だったなんて… ていうか俺、彼と今付き合ってるんだけど… キスとか色々しちゃってるんだけど…。 いいんだろうか…これって。色んな意味で。 「当然だけど、彼の義理のお兄さんも同じ立場にあたるよ。気を付けて。あの人はこっわいよ〜」 「怖い?」 「現に、片桐さんを追い出して、更には彼を人を使ってまで手にかけようとした人だ。……君も、会えばどんな目に遭うか分からないよ」 それでも行くの? 少々心配げな顔をした黒崎さんに再度最終確認をするように聞かれ、俺はゆっくりと、頭を頷かせた。 怖くないと言ったら、それは嘘になる。正直、こんなすごい家だとは夢にも思っていなかったし…。 でも……。 俺は大きく頑丈そうな黒い門を見上げた。 「……行きます。行って、片桐君のお兄さんと、話してきます」 黒崎さんは俺に目を向け、一呼吸置いてから頷いた。 俺は門の近くへと歩み寄る。すると、ひとりでに門が開いた。静かに開いた先に現れたのは、三十代前半ほどの男性だった。 よく磨かれた黒のスーツを着た彼は、一礼しながら落ち着いた声で言った。 「玲司様からお聞きしております。どうぞ、こちらへ。お部屋までご案内いたします」 俺はごくり、唾を飲み込むと、彼らのいる邸宅へと足を踏み入れた。

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