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111.甘くない夜の目覚め
一時的に寝落ちしてしまっていたのか、夜、ベッドの中で目覚める。
隣から視線を感じて横を振り向くと、片桐君が片肘をついて体を支えながら、まるでずっと見ていたかのように、穏やかな目で俺を見ていた。
茶髪の頭に、耳にはピアス。腕にはくっきりとタトゥーが刻まれている。
…何だか、彼と初めてカフェで会った時のことを思い出す。
『あの』
『わっ!』
あのときは、まさか彼とこんな関係になるだなんて、夢にも思っていなかった。
「…いつの間に寝てたんだろう」
呟くと、そばで片桐君が軽く笑む。
「お尻大丈夫ですか?」
ビク
「……たぶん」
隣の彼の顔をほんの少し眉をひそめて見ると、片桐君は俺を見て意地悪げに口角を上げている。
「なんですか」
すぐになにか言い返そうとしたが、ふっと頭に玲司さんのことが過る。
「あの、片桐君、俺……玲司さんと確かにこのホテルには来たけど、部屋に泊まったりしたわけじゃないよ」
それに、会いたくて会ってたんじゃなくて…と続ける俺に、分かってます。と片桐君が言った。
「分かってたけど、それでも腹立って…」
片桐君はベッドに仰向けに横たわると、片手で髪をかきあげるようにして天井を見上げている。
「星七さんが考えてることも全部分かってたけど…」
そう話す片桐君の横顔は、少し悲しげに見える。
「ごめん。俺もう、片桐君に隠し事しないって決めてたのに…」
なのに結局、こうして彼を裏切って、傷付けて…。
「いいえ」
片桐君は手を伸ばし、落ち込む俺の体を抱き寄せる。
「……全部、片を付ける」
「え…?」
片を、つける…?
「――だけど、今すぐはできない」
片桐君はそう言って、真っ直ぐに瞳を俺に向けた。
「“だからもう少しだけ、……待っていて欲しい”」
そこには、強い意志が宿ったかのような、彼の姿があった。
「あと、前にも言いましたけど、ベッドにいる時に他の男の名前出すのやめてください」
…あ…。
「―ごめん!ごめんなさい」
すぐに謝ると、片桐君の手が布団の下に潜り込み、裸の俺のお尻に触れる。
「どうしようかな」
言いながら、片桐君が後ろに軽く指で触れてくる。
「!あ……ち、ちょっと」
彼の腕の中から慌てて逃れようとすると、「何で逃げようとするんですか」と当然のように声をかけられる。
「だって片桐君…指入れようとするから」
「ああ。指濡らしてなかったからですか?すみません、忘れてました」
「いや…そういう問題じゃなくて」
言って、再び逃げようとする俺の腰を、片桐君が強く引き寄せる。
耳傍で片桐君の低くて甘い声が囁く。
「星七さん、何のためにわざわざホテルに1泊してると思ってるんですか」
え……。
片桐君は横たわっていた体を起こし、俺の上へと跨る。
ま、まさか……
「まだやりますよ。星七さんが一晩中寝てたら、やらないつもりでしたけど」
涼し気な顔をして言う彼に、俺は顔を青くさせた。
「む…っ無理無理むり!これ以上したら…ていうか、お尻まだひりひりしてるし……!」
片桐君の下で、ベッドに横たわったまま全力で首を横に振る。
真面目に、冗談抜きで、俺しない!絶対しないよ!明日も大学あるし、お尻大事だし…!
「大丈夫ですよ。今度は優しくしますから」
「今度はって…」
……信じられない。
「クス。何怖がってるんですか?そんな顔されると、また虐めたくなる」
片桐君が俺を見据えながら、極めて穏やかに言う。
彼に見下ろされる視線にビクリ、冷や汗をかきながらも視線を返した。
「俺……しないからね、片桐君」
俺の警戒をよそに、片桐君は唇へちゅ、と軽く触れるだけのキスを落とした。
顔を離した片桐君が、口元をわずかに吊り上げながら、俺の顔をじっと見つめてくる。
(~だめだ、抗えない……… 俺が彼を好き過ぎるんだろうか…)
片桐君は俺の首元に顔を埋め、鎖骨に舌を這わせ出す。
その後、再びナカに入って突いてくる片桐君に、俺は抵抗できないまま、声を上げ続けた。
あのまま一晩中寝てたら良かった…と、後悔する俺だった。
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