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114.意志(片桐side)
俺はスマホを手に、電話をかける。
数コール待って、ようやく出た人物に、俺は決意の目を、暗く濁った海の地平線の彼方へと向けた。
「決まったようだな」
電話越しの彼に向かって、俺は、はい。と返す。
「ならば、気持ちが揺らがない内に明日にでも発とう」
「……明日、ですか」
「なんだ。決意が固まった報告だと思っていたが」
違うのか?
育て親である父の声に、俺は一瞬、視線が揺らぐ。
しばらくの間ここに置いていってしまう彼を想って、決めたはずの気持ちが簡単にふらつく。
……だけど。
「……いえ。何でもありません」
俺は浮かぶ彼の笑顔を、頭から消し去る。
「もちろん、いつでも行く準備はできています」
父からの了承の言葉を受け、俺はゆっくりとスマホを下へとおろす。
大きく真っ白な満月が、暗闇に身を置く俺の姿を映し出す。
冷たい潮風が吹き付けてくる。
真っ暗な海は相変わらず境目を隠したまま、果てなくどこまでも続いているかのように見える。
それでも、俺の心にはもう迷いはなかった。
この先を歩き続ければ、いつかきっと出口が見えてくる。
幸せな世界が、きっとそこには広がっているんだろう。
…だから行く。
この先にある幸福を信じて。
俺が決めたことは、絶対に間違ってない。
“彼を失わないために”、この道を突き進む。
俺はもう冬の寒さすら感じなくなった体を翻す。
心にあるのは、絶対に失うわけにはいかないという呪いのように固執した想い、ひとつだけ。
まるで、もう1人の自分に体を乗っ取られたかのように、ひとりでに体が動いていく感覚を感じる。
感じていたあたたかな気持ちが、だんだん遠ざかっていくのを感じる。
だけど、どうしても守らなければならない。
絶対に“この光”を、…失うわけにはいかない。
――もう二度と、俺は同じ過ちを、繰り返さない。
俺は強い意志で、長旅の1歩を大きく踏み出した。
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