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第13章 122.帰国(片桐side)

――2年後、春。 *** 空港に着いてすぐ、俺はスマホを取り出す。 彼に電話をかけてみるが。 ……出ないな。 「“神代(かみしろ)”さん……じゃなくて、旧姓で呼んだ方がいいんでしたっけ?」 俺の数歩後ろを歩く、秘書の彼に視線を向ける。 「――彼、探して」 質問には答えず、要件だけ伝えスマホの写真を見せる。整えた黒髪に濃淡のスーツを着た彼は、画面を見て眉をひそめる。 「誰です?」 「星七伊吹季。多分今新卒」 人混みでざわめく空港のロビーを歩きながら話す。 「かみし……片桐さん、いいですか。あなたは先日“社長”に就任したばかりです。ご友人と遊んでる暇は今無いはずですよ。ご自分の立場をよく理解して…」 「――いいから探しとけ」 「……わかりました」 スマホをポケットにしまい、足早に空港の出口へと向かう。 外に出ると、黒塗りの社用車が待っていた。 車のドアが開けられ、隣には秘書が座り、すぐにタブレットで予定を確認し始める。 「本社到着後、取締役会があります。今後の経営方針の説明と役員との顔合わせです」 「その後は?」 「新規事業の調整と、海外グループとの連携強化が予定されています」 音もなく車が動き出し、ガラス越しに街の風景が流れていく。   ***   やがて車は街の中心へと向かい、本社ビルの前で停まった。 その入り口に足を踏み出した瞬間、数名の社員たちの好奇の目線に晒される。 「見て、あれ新社長らしいよ。若いね」 「まだ学生って聞いたよ。やっぱコネかなぁ」 「でも海外で結果残してきたって話だし、ただのコネじゃなさそう」 「なんかモデルみたいにかっこいいね」   ざわざわとした、小さな波紋が広がる。 それなりに覚悟はしていたが……。 (面倒くせぇ……)   心の中で悪態をつきながら歩く。 周囲の舐めるような視線を感じながら、オフィスの中へと入っていく。 ――静かな緊張感とともに、新しい物語が動き出した。

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