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129. 募る愛慕(藍沢side)※
【R18】
――
――『えっちしないか』
ホテルの部屋。
ベッドのそばに立つ俺の元へ、真剣な顔をした星七が近づいてくる。
眼鏡を手に持ったまま固まる俺の前まで来ると、星七が俺の顔を見上げ、見つめる。
艶のある黒髪が、彼の澄み切った綺麗な瞳にかかっている。
……相変わらず、可愛い顔してる。
いや、整ってる?キレイ系?どれなのか分からないけど。
過去に、同性たちが星七のことを噂していたことを思い出す。事故のこともあり、当初色々必死だった当の本人は、そんなこと知らないだろうが…。
「…しようって」
長い間見つめ合っていると、星七がそのうち、少し照れたように顔を逸らした。
……かわいい。
――て、そうじゃなくて。
「お前、突然何言ってるんだ」
俺は眼鏡を近くの机に置いてから、はぁと呆れたように息を吐いた。
「遊び過ぎて、疲れたのか?」
先に風呂済ませて早く寝ろよ、と言いながら星七の横を通り過ぎる。すると、後ろから星七の両手が体にまわされる。
背中に感じる彼の体温に、その場に立ち止まったまま息を飲んだ。
「俺たち、……付き合ってるんじゃないの」
星七の声を聞きながら俺は平静を装う。
ああ、そうだ。俺たちは付き合っている。
あの男がいなくなって、俺たちはよりを戻した。でも、彼が見ているのは、俺ではない。
初めて付き合った時も、今も。彼が好きなのは、絶対に――俺ではない。
決められた法則であるかのように、それはいつもごく自然で。だからこそ、俺はそこまで傷つかなかったのかもしれない。彼がたとえ俺を好きでなくても、それでもいいと思えた。
…だってありえない。
彼の目に、真っ先に俺が映ることなど。彼にとって、俺が1番になることなど。
まわされた彼の手を振りほどき、後ろへと振りむく。
「……星七」
「うん?」
無意識に、彼の顔へと手が伸びる。
「…!」
腰を引き寄せて、彼の頭の後ろを手で支えるように持つ。舌を入れたキスをすると、星七の体が驚いたようにビクっと動いた。
そのままベッドに彼とともに倒れ込む。隣を向くと、少し息を乱した潤んだ瞳をした星七がいた。
俺は、星七のソレにズボン越しに触れる。星七はすると、はっとするようにして、俺の腕を止めるように掴んだ。
「え、なに?」
もしかして、触られたくない?
星七はベッドに寝ころんだまま、俺から目を逸らし、ほんの少し顔を赤くさせている気がした。
なんだ…?
「……俺が、藍沢のを、するよ」
星七はそう言ってベッドの上で体を起こすと、横になる俺のズボンに手をかけてきた。
「、は…?え、」
驚く俺のズボンのベルトを外し、星七の手が下へチャックをおろす。
そのままずるっと下に履いていたものまでおろそうとする星七に気づき、俺は体を起こす。
「おい、何しようとしてるんだ」
声をかけるが、星七はこちらを見ようとしない。星七は立ち上がり、ベッドに座る俺の足の間へ入り込むと、床に膝をついた。
まさか……。
星七は、ベルトが外されたズボンの向こう側に覗く俺の下着に手をかけると、軽く下へおろした。
途端に出てくる俺のモノに、星七が一瞬驚いたカオをする。
刺激的なその絵面とアングルに軽くめまいを起こしかけていると、星七の手が俺のモノに触れるのがわかる。そのまますぐ、生温かいぬるりとした感触が這うのに気づき、
――瞬間、過去の彼の笑顔が脳裏に過ぎった。
『ねえ、このペンケースいいね。なんか、藍沢くんと似てない?』
『…だけど俺、眼鏡かけてない藍沢の顔も、すごく好きだな』
星七は、……俺を好きにならない。
どれだけ想っても、彼は俺には振り向かない。
俺は、彼の幼馴染であり、仲のいい友達という枠を超えられない。
事故のことを言うなら、俺は彼を過去に縛る足かせですらある。
何度想像しただろう。彼と結ばれる絶対にありえない瞬間を。
何度思い描いただろう。星七が俺に「好きだよ」と笑って囁く瞬間を。
好きにならない……彼は俺のことを、絶対に。
絶対に……。
いつの間にか瞑っていた目を開けると、星七が俺のモノを懸命に舐めていた。
俺は顔を片手で覆いながら、震える口を開く。
「……もう、やめろって」
星七の頭を片手で向こう側へと押すが、星七は離れようとしない。それどころか、
「…気持ちよくない?」
そう言って、星七が俺のモノを触りながら上目遣いで尋ねてくる。
頭が……おかしくなる。
星七が俺のモノを口に咥えて舌を動かし、俺はびくりと体を揺らす。
「もうマジで、…星七」
星七の姿を見下ろしながら、だんだんと込み上げてくる恋慕の荒波に体を震わせる。
「……出たらやばいから、もう口離せって」
「…いいよ、出して」
……っ!
俺は足の間に座る星七の体を抱いて、ベッドへと押し倒す。
星七が仰向けに横たわった体勢で、目を大きくさせて、上にのしかかる俺を見ている。
ずっと、見守ってきた。
ずっと、彼が俺でない男を見つめる姿をそばで見てきた。
俺は星七の服を脱がせ、軽く舐めて濡れた指を、彼の後ろへと当てる。
そのままナカに入れると、ビクッと星七が少し強ばった様子で体を小刻みに震わせながら目を瞑る。
俺は彼の上に跨り、彼の表情を見ながら指を前後させる。
「…っぅ、ぁ…」
視線を逸らして微かに声を出す、恥ずかしそうな星七の姿に、胸の奥から獣のような感情がふつふつと湧き上がってくる。
……挿れたい。抱きたい、――めちゃくちゃにしたい。
全部、優しさとか捨てて、乱暴に、欲望のままに、自己中に、腰を振りたい。
自分のモノで、彼のナカを激しく奥まで突きまくりたい。
啼かせたい。――吐き出したい。
俺のものにしたい……彼を。
星七を。
……だけど。
指を抜き、彼の両足を持ってナカに押し進めようとしたとき、星七の頬に涙が落ちる。
生理的な涙ではない、哀しみの涙が。
俺は彼のその姿を前に、押し進めようとしていた体を止める。
いつからだろう。
彼が、よく泣くようになったのは。
笑わなくなったのは。…いつからだろう。
今ここで彼を抱けば、俺の長年の願望は、欲望は、恋情は――満たされるだろう。
もうきっと、死んだっていい。
だけど、ただでさえ自分勝手に動く連中が多い中、もし俺までもがそうなってしまったら……。
そうしたら彼は、一体どうなってしまうだろう。
俺は彼の足を掴む手を震わせた。
…駄目だ。
やっぱり、こんなの嫌だ……
星七が今この瞬間もずっと頭に思い浮かべているのは、心に想っているのは、きっと俺じゃない。
……あの男だ。
俺は目前にある喉から手が出るほど欲しい光景から、強く歯を食いしばって目を逸らす。
好きなのに。
こんなに、好きなのに……。
何で、俺を好きになってくれないんだ、…星七……
『あっ、藍沢が照れてる〜!』
『照れてる〜〜』
過去の光景が昨日の事のように蘇る。守れなかった大事な過去が、鮮明に。
「…星七」
……愛してる。
愛してるよ……お前を。星七……
誰よりずっと、ずっと、愛してる……。
「俺を好きになって」
横たわる星七を見つめ、伝える。
「…好きになって」
叶わない願望を、何度も口にする。
閉じられた星七の目元から、綺麗に涙が頬を伝って垂れていく。
俺は潤む目を瞑り、声を出さずに泣き続ける星七の体を、震える手で抱き寄せた。
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