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131.幽閉

しばらくしてとあるマンション前で車が停まる。 運転席にいた彼が、片桐君側のドアを開け、片桐君が車を降りる。 彼の後に続き、俺も降りた。 「すぐ戻ってきてくださいよ、まだスケジュール詰まってるんですからね。“社長”」 ……社長? 「分かってる」 片桐君は俺の手を取ると、目の前のマンションへと向かった。 建物は高層で、壁は光沢のあるタイル張り。 自動ドアをくぐると、天井の高いロビーには、大理石の床。観葉植物やアートが並び、静かで洗練された空気が漂っていた。 コンシェルジュらしき人物が一礼し、片桐君を見て微笑んでいる。 片桐君は足早にエレベーターまで向かうと、上階へのボタンを押した。 俺は隣で黙って立つ、落ち着いた表情の彼の横顔を、ちらりと一度盗み見た。 エレベーターから降りると、ロビーの華やかさとは打って変わって、落ち着いた住居フロアが広がる。 フローリングに淡い色のカーペットが敷かれていた。 たどり着いた部屋の扉は、重厚で深みのある色合いで、高級感を漂わせていた。 さらに、扉の脇には小さな光るパネルが埋め込まれており、片桐君が端末に手をかざすと、パネルの光が反応し、カチリと小さな音がした。 彼がドアノブに手をかけ、扉を開けると――ゆとりある玄関が出迎える。 上品な照明に照らされた廊下をそのまま抜けると、落ち着いたグレーと木目を基調にした、広々としたリビングが目に入った。 左側には、黒色のスタイリッシュな大きなキッチン。 右側には、ゆったりとしたソファやテレビが、整然と配置されていた。 大きな窓から差し込む夕方の光が、空間全体を柔らかく包んでいる。 「俺、すぐ仕事に戻らないといけなくて。なんで、しばらくここに居てください」 広いリビングにほんの少し緊張しながら辺りをきょろきょろと見渡していると、片桐君が腕時計を確認しながら言った。 「えっ」 「夜には戻るんで」 再び玄関へ向かう片桐君。 「ちょっとまって、…どういうことっ?」 慌てて彼の後を追いながら話しかけるが、片桐君は振り返ることなく、滑らかな金属製のドアノブにスっと手をかけた。 「じゃまた数時間後に」 ……えっ!ほんとに、ほんとにもう行くの!? あっという間に部屋を出て行く彼の姿を、俺は呆然として見送る。 なんていうかもう…、すごい勝手だなぁ片桐君…。 俺にだって色々あるのに。 例えば、明日の仕事の準備をしたり、ベランダに干してる洗濯物を取り込んだりだとか…。 俺は少々ムッとしながら、玄関ドアのノブに手をかける。 しかし、回そうとした瞬間、小さな電子音とともに、ドア脇のパネルに赤く「認証されません」と表示された。 「ん……?」 認証されません?…どういうこと? 手で押してみても、扉はびくともしない。 もしかしてだけど俺、…片桐君に軽い監禁に遭ってない? 彼が戻ってくるまで、ここから出られないってことだろうか。 俺は事態を察し、ドアノブから手を離す。 …まあいいか。夜には戻るって言ってたし。 (部屋の探索でもしよう) 俺はのんきにそう思いながら、広い部屋へと踵を返した。

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