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第14章 138.未練

片桐君が去ってから、また少し日にちが経った。 仕事を終え、外に出ると、どんよりとした曇天だった。 (雨……降りそうだな) 帰路に着くと、やはりと言うべきか、雨が空から降ってきた。 俺は折り畳み傘を差し、自分の部屋へと急いだ。 あ…今日買い物行っとこうと思ってたのに。どうしよう。明日でいっか…。 部屋に着くと、俺は電気をつけ、鞄をおろし、意味もなくテレビをつけた。 明日のお弁当の準備しとこうかな…。その前にお風呂に入って、そのあとは夜ご飯にしよう。 冷蔵庫…何かあったっけ。テキトーでいっか…。 お風呂に入り、ご飯も食べ終わる頃、藍沢からメッセージが届く。 [家帰ってるか] [うん] [今週の休み、またどっか行こう] [いいね] [俺まだ仕事中だから、またな] 藍沢にスタンプを送って、少し微笑む。 その後、夜が訪れ、俺は寝る準備をしてベッドに横になる。 暗闇の中で、無意識に彼の顔が浮かんだ。 じわり、浮かぶ涙に、ぶんぶんと首を横に振る。 ――彼はもう俺の元には来ない。 連絡も来ない。 それも当然だ。またブロックしたから。 でも、…そうじゃなくても、彼から連絡は来ない。 そんな気がする。 彼の声が蘇る。彼の手の感触が、彼の表情が…。 今……彼は何をしているかな。 まだ、仕事をしているんだろうか。 俺のために…社長になったってことなのかな。 …すごいな、片桐君は。 そのうち、別の人を…好きになるのかな。 片桐君の家すごく大きかったし、それこそ許嫁とか、何も聞いてないけど、いそうだよね。 じゃあ…やっぱり、これで良かったのかな。 俺と彼は、釣り合っていないし、俺は…彼以外の手を、とってしまったから。 でも、これだけは思ってるよ。 片桐君に幸せになって欲しいって、心の底から思っているよ。 俺じゃない、別の人を好きになっても…… 「……っ……」 ……ばか、ばか、馬鹿だ俺。 また、飽きもせず……何度も彼のことを考えて、 馬鹿みたいに泣いて。 「…は……っ」 涙が頬を伝う。 すべて、自分で選んだこと。 俺が、決めたこと。 なのに、なんで後悔してるんだ、……俺。 彼はもう、俺のものじゃない。 これから、別の誰かの人のものになるんだ。 俺は声を押し殺して泣く。 ……いやだ。 嫌だよ、そんなの絶対。 誰にも、彼を渡したくない。 触って欲しくない。彼を。 誰のことも、目に映さないで欲しい… 俺だけを見ていて欲しい…… …好き…… ……片桐君が好き……。 すごく好き…… …大好き…… ――大好きなんだよ…… やがて、泣き疲れて徐々に意識を手放していく。 せめて、夢の中で彼に出会えることを願って…浅い眠りについた。

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