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《幕間》オーディションの裏側|密着カメラがとらえた、休憩中のふたり
三次審査──泊まり込みで一つの楽曲を完成させる合宿形式。
8人1組の全4チームに分かれ、2泊3日で歌とダンスの総合パフォーマンスを作り上げるこの審査は、オーディションの中でもとりわけ過酷だ。
そのなかの一つ、チームB。
2人1部屋のホテルで同室となった朝倉陽 と篠原悠人 は、今、控室の片隅に静かに座っていた。
休憩時間のひととき。
あぐらでストレッチをする者、壁際で発声練習をする者、チーム内で軽く振り合わせを確認する者。
そんなざわつきの中で、ふたりの周囲だけがすこし、温度が違っていた。
ローテーブルの前に並んで座るふたり。
陽はペンを片手にノートを開き、その肩越しに篠原がそっと覗き込む。
表情は真剣で、それでいてどこか、柔らかい。
密着カメラがそっと近づくと、気配に気づいた陽が少しだけ目を上げた。
スタッフが声をかける。
「何してるの?」
「歌詞……っていうか、気持ちの整理してたんです。課題曲、ちょっと難しくて」
カメラが映し出すノートの中には、走り書きの言葉がいくつも並んでいる。
『“好き”って、誰かに認められること?』
『伝えるとき、声が震えたのはなんで?』
『触れたくて触れないのは、怖いから?』
『ここの“好き”って、自分のため? 相手のため?』
視線を落としたまま、陽がぽつりと続ける。
「一人で考えてると、ぐるぐるするから。……だから、しの――篠原くんに聞いてたんです。どう思う?って」
篠原は、すぐには答えなかった。
ただ、ノートの一行にそっと指を添える。
「……別に正解とかないっすけど。考えながら歌うの、悪くないと思います」
──ふたりのやり取りを見ていたチームBの他の候補生が、笑いながらひょいと顔をのぞかせる。
「陽くん、相変わらず真面目だな〜。俺だったらそこまで考えらんないわ〜」
「考えないと歌えないんだよ。俺、器用じゃないからさ」
陽は苦笑してペンをくるりと回す。
「しのも、つきあってあげてるの優しいな」
そう言い残して、候補生は別の練習スペースへ戻っていった。
少しの沈黙のあと、陽がふっとつぶやく。
「……変なやつって思われたかな?」
「別に良くないっすか。俺は、真面目な方がいいと思うけど」
一瞬だけ視線が交差し、すぐまたノートへと戻る。
ノートの隣に置かれたペンが、まだ温もりを残して揺れていた。
――――――
📱 SNSコメント抜粋(動画公開後のTLより)
@bookends_sunday
陽くんこんなに恋愛わからんマンなのに、実際歌うと全くそんなこと感じさせないの本当すごい
@hyougennote
陽くんのノート、ただの努力じゃなくて“感情の手ざわり”まで書いてて泣いた。好き。
@earlymilk_3am
いや無理。ふたりの距離感えぐい。これで同室ってマジ?
@natsumeku_fude
しのくんの「別に良くないっすか」が好きすぎるんだけど、分かる人いる?
@shirabe_log
控室でも解釈一致すぎて死ぬ。推せる。二人揃って絶対合格して。
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