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第19話 シャルメーニュの寮長

「すごい……」  気づかぬうちにため息混じりにつぶやいた言葉を寮官は見逃さなかったらしい。人里離れた山奥にそびえ立つ城壁は天高く空を貫いている。この城がピシャランテ騎士団寮の母体である。 「ピシャランテの歴史は長い。350年続く伝統ある騎士団寮だ。今では王一族の近衞兵を輩出するのは我が寮が最も多い。そのため、全土から優秀な少年たちが騎士になるべく集う。おまえもこの門をくぐったならばピシャランテの名を持つものになる。恥じぬような行動をしたまえ」 「はい」  馬車の窓に頬をつけるようにして、外の景色を食い入るように見つめる。槍のように鋭い切先を持つ黒鉄の門が城一帯を囲んでいる。そこが開け放たれるのは、主に年に2回だけ。入寮式と退寮式の2つの式典のときのみ。それ以外は年内行事や特別行事、祭事でなければ門は硬く閉ざされたままだ。  堅固な門をくぐると、そこには草木の芽吹く森があった。この森の先に寮があるという。馬車の進むままにぼくは夢想した。この騎士団寮で一人前の騎士となり、主人であるハイリに仕える。それがぼくの夢で、果たすべき使命だった。  シャルメーニュの寮館に着くとすぐに寮長が出迎えてくれた。すでに同じ時期に騎士団寮に入った少年たちで玄関先はごった返していたが、それでも寮長は優しくぼくを出迎えてくれた。 「はじめまして。私がシャルメーニュの寮長のエリオだ。何かわからないことがあれば私に聞いてくれ」 「オズワルドといいます。これからお世話になります」 「早速部屋に案内する。シャルメーニュの寮館は他の2つの寮よりだいぶ小さくてね。部屋は2人1部屋の相部屋になるけど、我慢してくれ。ちなみに寮長になれば1人部屋が与えられる」 「構いません」

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