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第29話
いた! お顔立ちがくっきりされた。肩につくくらいだった髪の毛は腰の辺りまで伸びている。大人の姿に変わっている。あんなに背が高くなられて。もう僕とは頭3つ分違うんじゃないのか? いや、そんなことはどうでもいい。やっと、やっと会えた。数年ぶりにハイリに会える。声を聞ける!
ぼくは人波の隙間から人集りの円の中心に躍り出た。まさに、言葉通り躍り出たのである。
ハイリは後ろから飛び出してきたぼくに気づいたのか、ゆっくりと振り返りーー。
「ハイリっ」
「……」
その場に跪き、顔を上げた僕の頬を強かな衝撃が広がった。
「!?」
あれ、なんでーー?
ぼくの視界は左にぶれて、そのまま体ごと地面に叩きつけられた。ぼくは何が起きたのか理解できなかった。いや、理解したくなかった。ハイリがぼくの頬を平手で殴ったのだ。
「ハ、ハイリ。ぼくです。オズ、オズワルドです」
ぼくの必死の訴えも目の前のハイリには届かないようだった。翡翠色の瞳は暗い影で埋め尽くされていた。
「おい、だれかこのシャルメーニュのガキを連れていけ」
ハイリの側に控えていた血気盛んそうな男が周りの者に命令した。まわりのデューフィーの寮生がぼくの肩を押さえる。ぼくは地面に膝をつき、ただ顔だけを上げその視線の先にいるハイリに目を向けた。
「ダグリス。いい」
ぼくの腹に一撃を加えようとしていたダグリスと呼ばれた男を凛とした声で止めたのは、ハイリの声だった。声変わりをしたのか、少し重みを含んだ低音はこんな状況だというのに不思議とぼくの耳に心地よく響いた。
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