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第31話
「おまっ、きったねえな。早く着替えろ。部屋が汚れる」
「……ごめんよ。すぐに着替えるよ」
ウルクの面倒くさそうな声がさらにぼくを俯かせる。ガシャンガシャンと大きな音を鳴らしながら、ぼくは大浴場へ向かうべく用意をした。
大浴場で体を清めながら、頭の中は今日のハイリの言動で尽きなかった。あの出来事は幻だと思いたい。ぼくのことを知らないなんて嘘に違いない。だって、ハイリとぼくは子どもの頃からの友達で、兄弟で……。
「っ」
ぼたぼたと溢れる涙を堰き止めることはできなかった。幸い大浴場にいるのは数人で、ぼくはシャワーを顔に打ち付けて泣いているのを悟られないようにした。
その夜はなかなか寝付けず、ウルクの気持ちよさそうないびきを本気で嫌になり怒鳴ってしまいそうになった。しかし、そんなことをしては本気で部屋から追い出されると思い直し、布団を頭までかぶって目をつむった。
大丈夫。きっとハイリはぼくの成長した姿に気づかなかっただけなんだ。時間をかけて説明すればきっとぼくだとわかってくれるはずだ。
やっと前向きに考えが固まった一方でぼくの瞳からは幾筋もの涙の川が流れていく。それはシーツを濡らし小さな湖をつくった。
ーー泣くなオズ。スウェロニア家の子は泣いてはいけないよ。
幼い頃、白鳥を見に行った日。小さな崖から足を踏み外して足の骨を折ってしまったぼくにかけてきたハイリの言葉が、胸の奥深くからゆっくりと込み上げてきた。
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