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第32話 剣名式
こぉん、こぉんと鐘を鳴らしながら王を運ぶ馬車がピシャランテ騎士団寮に続く一本道に列をなす。それはぼくが入寮してから半年後の出来事だった。
その知らせが伝わると寮内はその話題で持ちきりになった。
「聞いたか? 光王が剣名式に来席されると」
「ああ。俺たちはついてるな。剣名式にズニ国王が来られるのは実に10年ぶりと聞く」
「やはりあの噂は本当だということか……」
「噂? 詳しく聞かせろ」
「ここ数年、パルーアの国境線が南西に少しずつ広がっている。隣国の領地に侵攻しているということだ。それにあたり、新たな兵士たちを募集しているのだという」
「なるほどな。俺たちの力を王は欲しているのやもしれないな」
「国王の前での剣名式だ。失礼がないように、とエリオ寮長が口酸っぱく1年生に言い回っている」
「1年生のための儀式だもんな。3年生の俺たちも王を一目見ることができる幸運を噛み締めなければな」
「それにはまず明後日に迫った試験で落第せぬようにしなければ」
「そうだな。シャルメーニュの間に急ごう」
ぼくはそんな会話をする上級生2人の後ろにあるベンチで読書をしていた。シャルメーニュの座学の講義はぼくにとっては少しレベルが高く、毎日の予習と復習が欠かせなかった。入寮した当初は慣れないことで課題を提出するのがやっとだったが、半年経った今ではクラスの中でも半分より上の位置の成績を残すことができている。
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