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第36話

「とにかく、オズは日々の講義をしっかりと受けて苦手な練武に全力を注げばいい。ぼくだって入寮した当初は下から数える方が早い成績だった。それでもこつこつ努力すれば力はつく。継続は力なり、だぞ少年」  ぽん、と頭を軽く撫でられてぼくは自分の中の気持ちを固めようと思った。ハイリのことはともかく、ピシャランテで生き抜くためには日々全力を尽くさないといけない。ハイリの元に仕えるのは、騎士になってからだ。だからハイリのことが気になっても、まずは自分のやるべきことに向き合おう。 「剣名式を行えばまた気持ちも新たに引き締まるさ。いい名前をもらえるといいね」 「はい。いつもありがとうございます。レフさん」 「はは。改めて言われるとむずがゆいな。さぁ、午後の講義の時間だ。行ってらっしゃい」 「行ってきます!」  シャルメーニュの間を後にしてぼくは講義が行われる講堂へ足を運んだ。入り組んだシャルメーニュの寮の地図も今は頭の中に完璧に入っている。  大丈夫。ぼくはちゃんと成長している……。  口下手なぼくはシャルメーニュの寮生で友達だといえるのはレフさんしかいなかった。市民の子どもと一口にいっても、荒くれ者から生真面目な者まで色々といて気づけば周りに輪ができてしまっていた。その輪は決して強固ではないものの、ひとりぼっちのぼくを入れてくれるほど生優しいものでもなかった。  朝食前にシャルメーニュの間でレフさんと読書をし、午後の講義が終わるとすぐに風呂に入り残りの時間はシャルメーニュの間で勉学に励む。他の寮生たちは楽しく遊んでいてもぼくにはそんな相手はいなかった。  レフさんはぼくを弟のように可愛がってくれて、ひっつき虫になっても嫌な顔ひとつしなかった。

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