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第37話
剣名式の当日。朝食の時間からシャルメーニュの寮生は落ち着かない様子だった。
王と謁見するのは一生に一度あるかないかだと言われている。しかも寮生の間にとなると前代未聞の事件であった。
「シャルメーニュの寮生も15分後に広間に集まるように。遅れるなよ」
エリオ寮長の言葉を聞くと、皆思い思いに移動し始めた。ぼくは広間に続く長い列に挟まれるようにして前に進んだ。
広間にはすでにハイリのいるデューフィーとカロスの寮生が整然と列を整えて起立していた。どうやら騒いでいるのはシャルメーニュの寮生だけのようだ。
ぼくは必死で人並みの隙間からハイリの姿を探したが、デューフィーの寮服が皆同じせいもあってか見つけることはできなかった。
ハイリと会える数少ないチャンスなのに……。
ぼくは少し項垂れつつ列に並んだ。
こぉん、こぉんという王を乗せた馬車を知らせる鐘の音が響いた。ざわついているのはシャルメーニュの寮生だけで、他の2つの寮生は一言も喋らない。
しかし、不意に広間の音が全て消えた。ぼくは一瞬、俯いていた顔を上げた。壇上に足を踏み入れた狼の毛皮を纏う大きな塊を目にしたのだ。その塊は大きく、重たく、温かそうだった。反射的に地に膝がついた。気づけば周りの寮生も皆そうしていた。
「顔を上げよ。ピシャランテの若人らよ」
腹の底に響くような深い声だった。ぼくらは皆一斉に壇上に向けて顔を上げた。そこには遠くからでもわかる温和な顔立ちをした老人が席に座っていた。老人と呼ぶのは失礼かもしれない。長く伸びた口髭は顎髭と共に胸のあたりにまで伸びているが肌にはハリがあり、目には刃のような鋭さがあった。しかし、顔全体の印象としては温和でぼくはそれを不思議に感じていた。
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