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第40話
その事件は後々ピシャランテ騎士団寮で長く語り継がれることになった。
その賊はかつて国王が侵略した北方の国の出身だったそうだ。身分を隠しピシャランテ騎士団寮に入寮し、王の側近となるべく勉学に励んだという。彼の目的はただ一つ。国王の命を奪う事だった。彼はついに国王の側近の兵とまで成り上がり、好機をうかがっていたのだという。
「どんな思いで何年も仕えていたんだろうね」
剣名式のあとお祝いにと駆けつけてくれたレフさんが、談話室の中央の席で口にした。午後10時近い談話室には、ぼくとレフさんしかいない。
「それほど祖国を蹂躙された恨みが深かったのでしょうね」
ぼくはまるで賊の気持ちになったかのように言った。レフさんはちらりと僕を見やると低い声で言った。
「国王の様子も変と言えば変だった。自分は決して殺されない……そんな確信のある目をしているように見えた」
「それは他の近衛兵に全幅の信頼を置いているからでは?」
「そうなのだが、賊を討ったのは今日は近衞兵ではないだろう? スウェロニア家の長子の株は上がったりだな」
「はい。流れるような所作でしたね。手慣れていると言えば聞こえは悪いですが」
ハイリのあんな一面を見るとは思ってもなくて、少し動揺していた。それが声に出ていたのかレフさんが心配そうにこちらを見る。
「人が殺されるところを見るのは初めてかい?」
ぼくは静かに首を横に振った。
「2回目です。でも慣れていなくて……」
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