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第46話

「おまえは……」 「そうです。騎士になるためにピシャランテ騎士団寮にやってきました」  ハイリはそこまで聞くと、一度小さく項垂れた。数秒としない時間がぼくには長く感じられた。 「おまえはやはり相当頭が悪いようだ」  馬鹿にしたような笑い声とともにハイリは言い放った。ぼくは雷に打たれたかのように動けなくなる。 「知らぬと言っているのを否定し続ける。幼児(おさなご)でもわかるようなことを信じようとしない。身勝手な男だ」 「そんな……忘れてしまわれたのですか? にいさまっ」 「にいさまだと? 俺には弟などいない。それが答えだ」  ハイリはその瞳を三日月のように歪めて笑った。 「今度にいさまと呼べばおまえをこのピシャランテ騎士団寮から追い出すまでだ。おまえは俺の行く道の邪魔にしかならない」  吐き捨てるように言うとハイリは花園の出口に歩いて行ってしまった。ぼくはまだ動けずに空を見上げていた。さわさわと頬を撫でる風に瞳からこぼれたものが張り付いて乾いていく。  忘れてしまったのではない。ぼくはハイリのことを勘違いしているのかもしれない。ぼくの一方的な思い込みの記憶かもしれない。だとしたらなんて無様なんだろう。

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