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第47話

「あれは幻だったのかもしれない」  その日の晩、ウルクは外に出かけていて窓を叩く雨粒の音だけがやけに大きく部屋に響いていた。ぼくはノートを広げて今一度自分の気持ちを整理するために書き出していた。  しかし次第にペンを滑らせる手が重くなり、何も書けなくなる。  ハイリと過ごした優しさに包まれた日々は幻だったのだろうか。ぼくが勝手に仲がいいと思っていただけなのだろうか。ぼくが勝手にハイリのことをにいさまだと思っていたのかな。にいさまはぼくのことを弟だとは思っていなかったのかな。そうだよね。だってハイリとぼくは主君と従者だもの。  現在のハイリと昔の記憶のハイリとでは似ても似つかない。昔のハイリがお日様だとしたら、現在のハイリは夜空に1人輝く一番星のようだ。誰も寄せ付けぬ高貴な光。孤独ではなく孤高。それがデューフィーの寮長である現在のハイリの姿。  再会するのを心待ちにしていた分、ぼくの落胆は大きかった。  奥様になんと伝えれば良いのだろう。ぼくは半年に1度、お屋敷の奥様にハイリの近況やぼくの生活を手紙で伝える役目を担っている。初回でここまでつまづくとは思ってもみなかった。  ハイリはお元気です。しかし、性格が変わられていてーーいや、そんなこと書けない。ここは嘘でもいいからお元気でご活躍されていますとだけ書こう。ぼくも元気でやっているとだけ伝えよう。それと、友達ができたことも奥様には伝えたい。奥様はハイリがピシャランテ騎士団寮に入寮してから1人になったぼくをずいぶんと心配してくれた唯一の人だった。ぼくはその優しさにいつも救われていた。 「レフさんという上級生の方と友人になりました。彼はいつも優しくぼくに騎士となるために必要なことを教えてくれます。ぼくは毎日ピシャランテ騎士団寮で新しい学びを得ています。これからも精進していきます。奥様もどうかお元気で。また半年後、手紙を送りますね。   オズワルドより」

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