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第48話 アフタヌーンティー
夢を見た。大人の姿になったにいさまがぼくの頭を優しく撫でてくれる。初めてハイリに出会ったときに見た夢とそっくりだった。
目が覚めるとぼくは静かに両の目から涙を流していた。枕をぐっしょりと濡らしていたそれを指で払う。ひどく冷たくなっていた。
「オズ」
「レフさん」
シャルメーニュの間で顔を合わせると、ぼくらはいつものように椅子に座った。レフさんは香ばしいコーヒーに口をつけ新聞を読んでいるところだった。その所作が大人びていて、ぼくは密かに憧れていた。切長の瞳が小さな文字を追いかけるのを見ていると、それだけで気分が落ち着くのだ。
「今日は珍しく遅く起きてきたんだね」
「え、そうですか?」
ゆっくりと視線を上げたレフさんと目が合う。アーモンド型の瞳が心配そうにこちらを覗いている。
「目元が赤いよ。嫌な夢でも見たのかい?」
ぼくは急いで目元を手で隠した。スウェロニア家の子たるもの泣いてはならない。泣いていたことを悟られてはいけないとハイリに教わったのに……。
「レフさんの気のせいだと思いますよ。ぼくの寝起きは悪くなかったです」
可愛げのないことを言っていることは重々承知だ。けれど、これで押し通したい。するとレフさんは「そうか」と言うとまた新聞に目を戻していった。その無言の優しさが胸にぽかぽかと広がっていく。
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