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第53話
「レフにぃに会いたくて20分も前に来ちゃったよー」
「おまえはいつも面白いやつだな」
「だろー? 早くオズも座れよー」
「は、はい」
指さされた椅子に座ると、レフさんが邸宅のキッチンからカップを持ってやってきた。華やかなアールグレイの香りが部屋を包んだ。カップはぼくの目の前に置かれたが、1つ余ってしまった。
「まだ1人来ていないんですか?」
「あぁ。今日はいつにも増して忙しいんだろう。でもそろそろ来ると思うよ」
レフさんがそう言いかけたとき、邸宅のドアが開く音が聞こえた。
「あ……」
無駄のない所作で邸宅に入ってきた姿には見覚えがあった。鮮やかな黒髪と白髪が背中に靡いている。そして、その薄くて形の整った唇から低くて心地よい声を放つのだ。
「レフ。間に合わなくてすまない」
「やぁハイリ殿。獅子狩りお疲れ様」
そう言われたハイリの服には砂埃や草の木の根が絡まっていた。獅子狩りの帰りのようだ。
「殿はつけるな……イルファも久しいな」
ハイリは視界に入っているはずのぼくを無視してイルファに声をかける。イルファは喜びを露わにして立ち上がり、ハイリに駆け寄った。
「良い獅子は捕まえたー?」
「ああ。シス王子が2頭仕留められた。今ごろ王都に向けて移動中だ」
あの冷ややかなハイリが、2人の前ではきちんと会話をしている。
ぼくと話すときなんて目も合わせてくれないのに。どうしてなんだろう。
ぼくはレフさんの後ろに隠れるようにして起立していた。
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