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第54話

「オズ。どうしたんだい。ぼくの後ろに隠れたりなんかして」 「ご、ごめんなさい。緊張してしまって……」 「変なやつだなー。それも仕方ないかー。デューフィーの寮長ハイリ様に会えるなんて幸運めったにないからなぁ」  イルファはからかうように笑っていたが、一方のハイリの態度は氷のように冷たい。その温度差に気づいたのはぼくだけではないようでーー。 「ハイリ。新入りに厳しくあたらないでくれ。怯えているだろう?」 「別に怯えさせているつもりはない」 「そう言ってもな……どう見ても邪険にしているようにしか見えないんだが」 「おまえの目がどうかしているんだろう。つまらない話は終わらせて、早く一息つけさせろ」  どかっと珍しく品のない音を立ててハイリが椅子に深くもたれかかった。ぼくは自分の隣の席にハイリが座ってきたことに驚きを隠せないでいた。 「おやおや、さぞかし疲労困憊のようだねハイリ」 「当たり前だ。何里走ってきたと思っている」 「獅子がいるのはパルーアの南の国境線付近と聞くからねー。朝から遠くまでお疲れ様でした」  3人の仲睦まじい会話に入れずに黙っていると、レフさんがぼくに小声で囁いてきた。 「ハイリのことは気にしないでいいよ。もともと人に懐かない野良の狼みたいなものなんだ。今でさえこうして話しているけど、出会った当初は目を見て話すことさえしなかったよ」  イルファがちょっかいを出すのに慣れているのか、ハイリは上手く流していた。  あのハイリが人見知りだって? そんなの信じられない。ピシャランテ騎士団寮でのハイリの様子はやはりどこかおかしい。人が変わってしまったみたいで、幼い頃のハイリとは別人のようだ。

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