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第56話

 「要するにまだ子供なんです」と言葉をまとめるとレフさんは安堵したように微笑んだ。 「そうだったんだね」 「へぇー。じゃあこれからはそういう出会いもあるかもね。ピシャランテ騎士団寮には良い男がわんさかいるからさー」 「イルファ。お前の性癖はどうでもいい。変に意識させるな。ピシャランテ騎士団寮は騎士になるための学舎だ。断じて快楽の巣などではない」  少し機嫌が悪くなった様子のハイリを見ていると胸がはらはらした。  ぼくの返答が何か気にさわってしまったんだろうか。だとしたらすぐに謝ったほうがいい。そう思ってぼくはハイリに体を向けた。 「ごめんなさい。なにか気にさわることを言ってしまいまったみたいで……ぼく、昔から余計なことを言いがちなんです」  ぺこりと頭を下げるが、ハイリからの返答は返ってこない。よほど立腹しているのだろう。ぼくの視界はだんだんと滲んでいく。  悲しくて、悲しくてたまらないのだ。どうしてこんなに嫌われてしまったんだろう。なにかぼくがハイリの嫌がることをしてしまったのかもしれない。  ぎゅっと膝の上で握った拳にぽろぽろと涙が落ちていく。 「あららー」  気まずそうにイルファが声を上げた。すぐさまレフさんがぼくにシルクのハンカチを渡してくれる。 「オズ。大丈夫?」 「ごめんなさい。ぼく、帰りますっ」  椅子から勢いよく立つとぼくは玄関に向かって歩いて行こうとした。そのときだった。

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