57 / 80
第57話
「待て」
熱い塊がぼくの手首を掴む。それは懐かしい感覚で、ぼくは無意識にまた涙を溢れさせていた。
ハイリはぼくの腕を掴むと大きなため息をついた。
「騎士なら簡単に泣き顔を見せるな」
「ごめんなさい……っ」
そしてぼくを掴む手を緩めて離した。
「今日は早く帰って休め」
「……はい」
ぼくはその場を後にした。イルファとレフさんにお礼を伝えると玄関まで送ってくれた。そのあと1人とぼとぼと自室に戻った。
だから知らなかった。ぼくがいなくなった後で、レフさんとハイリが交わした会話がどんなものだったのかを。
ともだちにシェアしよう!

