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第62話
「ほら、一口目はオズに食べさせてやりたかったんだから早く食べて」
フォークを持つ手を突かれ、ぼくはまっすぐフォークをフロマージュに突き刺した。じゅわり、と音を立てるかのように柔らかい。端の部分をよそって口に持っていく。
「はむっ」
ほっぺたが落ちそうなほど甘い香りに頭がくらくらする。舌の上でリボンがほどけるようにフロマージュがとろける。フワフワとした口当たりの後で、濃厚なムースが口を襲う。なんて美味しいんだ! こんなに美味しいフロマージュ食べたことない!
フロマージュにぱくつくぼくをレフさんはにこにこと見守る。ばくばくと口を開けフォークを進めていて、はっと気づく。レフさんが一口も食べていないことに。
「レフさん、ごめんなさい。おいしくって食べすぎてしまいました……」
しょぼん、と自分の失態に打ちひしがれているとレフさんはぼくのフォークを持つ手を掴んでこう言った。
「じゃあぼくにも食べさせて」
「あっ」
ぼくの手ごと掴み、銀色のフォークがフロマージュを突き刺す。そして、そのままフロマージュがレフさんの綺麗な口の中に含まれていった。艶やかな飴色の固体がレフさんの舌の上で溶け始める。品のない食べ方なのに、なぜか品を感じてしまう。
「うん。やっぱりワチュールのフロマージュは美味しいな」
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