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第64話
「クリームがついてる。サンタクロースの髭みたいだよ」
と言って、ぼくの上唇の上についてしまったクリームを指ですくってレフさんはそれを口の中に含んでしまった。
「やっぱり甘いな」
「……っ」
なんでそんな恋仲の人がするようなことをするんだろう。
ぼくは恋人同士のような展開に言葉が出なくなって赤面していた。リスみたいだと笑われたのも恥ずかしい。今すぐ木の陰に隠れたいくらいだ。
さぁぁっと丘の上に風がなびき、辺りの木立がさわさわと囁き合う。2人でその音を聞きながら、午後の光が燦々と降り注ぐ花園でとりとめのない話をした。そのあとで、ぼくは今日の説明会で決意したことをレフさんに話した。
「ぼく、剣舞大会に出てみたいんです」
ぼくは意を決して言葉を放った。レフさんは一瞬だけ目を丸くして「どうして?」と聞いてきた。
「憧れの人に近づきたいんです。そして1人前の騎士になりたいんです」
「憧れの人ってハイリのことかな?」
こくん、と小さくうなづくとレフさんは「なるほどねぇ」と呟いた。
ぼくはレフさんにはスウェロニア家の使用人だということは伝えていない。ハイリと血の繋がらない弟だということも今まで誰にも話したことはない。ぼくを支援してくれているハイリのお母様である奥様から、くれぐれも身分は隠すようにと言われているからだった。なんでも、金目当ての者がぼくに不用意に近づかないようにとの配慮だった。
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