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第82話 シャルメーニュの英雄
「オズワルド様っ!」
「あっ! ハイリ様を自分の身もかえりみず助けたオズワルド様だ! あのお方はシャルメーニュの英雄! 寮生の誇りだ!」
「傷はよくなったのかな? 仙薬が完成したと噂で聞いた。はやく治るといいが」
医務室で7日間の入院の後に、ようやくぼくは自分の寮の部屋へ戻ることが許された。仙薬を飲んだことでみるみるうちに胸の傷が良くなったのだ。でも、すごくおいしくなかった。初めて飲んだ瞬間、喉に痺れが走り口の中も麻痺してしまい呂律がまわらなかったのだ。でもそれも、一晩で元に戻った。仙薬にはものすごく強い回復力がある代わりに、それ相応の副作用も出るのだと医務室の先生から説明を受けた。
寮生が集まる廊下を歩いているだけなのに、皆の視線を一身に浴びて少し緊張してしまう。ぎこちなく歩いていると、ぼくはいつのまにか同じ側の手と足を出していることに気づいた。
そんな病み上がりのぼくを隣で歩くペースを落として合わせてくれるのはレフさんだった。レフさんはぼくが医務室で寝たきりになっている時も毎日お見舞いにきてくれた。
少しでも気持ちが和らぐように、と庭園で咲いた花を選別し花束として渡してくれた。オーガンジーリボンにふんわりとくるまれたそれを見ているととても気持ちが落ち着いた。
「オズ。大丈夫? ゆっくり自分のペースでいいからね」
「はい……。ほぼ寝たきりだったので急に歩いたら身体がびっくりしてしまったようです」
「休養も騎士にとっては大切な項目だ。今日はゆっくり部屋で休むといい」
そう言うと、ぼくの部屋の前まで見送ってくれた。その優しさが胸に響く。
ほんとうにレフさんっていい人だな。
部屋の扉を閉めるとウルクがベッドに横たわっていたので、びくびくしながら声をかける。
「ひ、久しぶり」
「……お前」
強面のウルクはゆっくり身体を起こすとぼくにのそのそと大きな身体を揺らして近づいてきた。それと同時にぼくの心臓もばくばくと早鐘を打つ。
何を言われるんだろう。
そう思った時、初めてウルクが破顔したのを見て目を丸くした。
「お前……! 賊からハイリを守るなんて、なんて漢気のある奴なんだ。寮生の間じゃお前の武勇伝の話で持ち切りだ。俺も鼻が高いぞ。相部屋の相棒が誇り高き騎士であると皆に証明したんだからな」
「相棒……? ぼくが?」
「おうよ!」
今までの振る舞いと打って変わって急にぼくを認めてくれたウルクに内心ほっとした。悪いやつじゃなかったことに少し笑みが溢れてしまう。
「これは俺からのちょっとした見舞い品だ。実家から届いたマヌカハニーだ。風邪にも効くぞ」
そう言うとウルクは手のひらサイズのくまの形をした透明な瓶に入ったマヌカハニーをプレゼントしてくれた。ころんとしたくまのフォルムが可愛くておもわずじっと見つめてしまう。それに気を許したのか、ウルクはその後ぼくを2段ベッドに乗せる介助までしてくれたりと至れり尽くせりだった。
なんだかんだ仲良くなれるならこれもこれで良かったかも。
ぼくは部屋の電灯が消える頃、そんなことを思って眠りについた。久しぶりに被る毛布は少し毛玉ができていて肌に触れるとくすぐったいけど、それも騎士としての鍛錬のひとつと思えば苦ではない。
何より、小さい頃は気弱だったぼくがピシャランテ騎士団寮で成長した証をハイリや他の寮生に証明できたことが一番の自信に繋がった。
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