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第86話 秘密結社の軍師になりました

「はー。食ったあー」  皆の中で一番早く食べ終えたのはイルファ先輩だった。イルファ先輩もぼくと同じように細身な体型だが、腕周りと太ももには大きな筋肉がついている。細マッチョ体型というらしい。  以前、レフさんが教えてくれた。その体型はピシャランテ騎士団寮の男たちにとってやみつきになるくらい美味なのだという。実際、イルファ先輩はすごくモテる。初めて会った時にウルクとしてたのは、驚いたけど。  そんなイルファ先輩のお腹はぽよんと大きくなった。まるで赤ちゃんがいるお母さんみたいな大きなお腹だ。ぷはーっと大きく息を吐くと、イルファ先輩はテーブルに頬杖をついてまだ食事中のぼくらをぐるりと見渡した。 「ねえねえ。今日ってなんでみんなでランチしてるんだっけー?」  たしかに! ぼくもそれ、すごく気になっている。  いい意味で空気を読まないイルファ先輩の疑問に、ハイリは小さくため息を吐いて応じた。レフさんは家畜を見るような瞳でイルファ先輩を見下す。 「イルファ。前に言ったじゃないか。このランチミーティングは、秘密結社である我々の特別な会だと」 「ひみつ、けっしゃ?」  ぼくは思わず持っていたパンの欠片を膝の上に落としてしまった。慌てて拾って口へ運ぶ。レフさんは、まるで人格が変わったようにぼくには優しく教えてくれる。天使と悪魔みたいな切り替えだ。 「オズには言っていなかったね。ごめんよ。この会は、ピシャランテ騎士団寮を陰で支える秘密結社である我々の定例会議も含めているんだ。リーダーはハイリ。副リーダーはぼくの役目さ。一応言っておくとイルファは特攻隊長、そしてオズは軍師だよ」 「えっと、ぼくは軍師? 軍師ってどんなことをするんですか?」 「んー。まあざっくり言うと、頭脳戦で頑張る役割さ。でも安心して。オズにはぼくらがついているから最初から任せっきりにはしないよ」  レフさんが安心する言葉をかけてくれた一方で、ハイリが突如飲んでいたアールグレイの紅茶にむせたのかごほごほとやっているのが見えた。 「っお前にすべて任せきりにしたら、秘密結社どころではなくなる。勝手な行動は慎むように。レフの言うことを素直に聞いておけばいい」 「……はい。わかりました」  余計な真似はするな、というハイリからの釘を刺された気分だ。いまいち軍師というのがどんな役割かわからないけど、レフさんの言う通りにしたらいいんだな。  ぼくはふむふむ、と心の中のノートにメモを取った。せっかく、その秘密結社とやらに誘ってくれているのだから、皆のためにも力になりたかった。  そんなこんなで、ぼくにはピンとこない秘密結社の定例会議とやらが始まり、聞こえてくる言葉は呪文のような難解な語彙ばかりですぐに飽きてしまった。同じくぽけーっとしているイルファ先輩に誘われて2人でこっそり邸宅を抜け出し、薔薇園でかくれんぼを始めた。  ああ、なんかこれスウェロニア家の広いお屋敷の庭でハイリとかくれんぼした幼い頃を思い出すなあ。  わだかまりが解けてからというもの、もうハイリを怖いと思うことはなくなった。剣舞大会の日も付きっきりでぼくの傷の様子を見てくれていたし。  以前のように元の親しい距離に近づけたことが嬉しくて、でも周りには秘密にしなくちゃいけないという状況がなんだか胸をハラハラさせる。  兄の心知らずなぼくは能天気にもイルファ先輩とのかくれんぼを全力で楽しんでいた。  邸宅の窓からそんなぼくの様子を眺めるハイリの視線など、知りもせずに。

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