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第87話 2回目のおまじないに込めた想い(side ハイリ)

 ああ、もう。  誰にも見つからぬようにしておくれ。 特にレフは距離が近すぎて不安だ。オズの半径1メートルには入れたくない。  スウェロニア家との繋がりを打ち消してやりたい。  誰にも見つからないように。  この美しい花が摘まれないように。  わたしが見守っていなければ、護ってやらなければ。  どうかまだ見つからないように。  おまじないと称して定期的にオズに会える口実を作った自分がひどく子どもじみていて羞恥すら覚えるが、オズは疑いもせず信じている。  そして俺の気持ちは蓋をして絶対に気づかれてはいけない。それはオズを破滅の道へ誘うだろう。そんなことはこの俺が決して許さない。  愛しているのは弟としてのオズか。  1人の男としてのオズか。  その狭間の中で俺は宙ぶらりんで揺れている。  だが、そんな気持ちを鉄仮面に隠して、花園でイルファと隠れんぼをしているオズに呼びかける。 「オズ。そろそろ帰れ。シャルメーニュ寮の門限の時間だろう」  レフの言う秘密結社の定例会議が終わり、明るかった空は茜色に変わっている。それは雲を連れて明日の光のために、共に東へ沈もうとしていた。  ここの土地の風景はまるでキャンバスに描かれた油絵のように趣向がある。ピシャランテ騎士団寮に入ってもう何年も経つが、時々この景色を絵におさめたくなる。 「はい。そろそろ帰ります。あの、定例会議では何のお話をしたのですか?」  ちら、と先に邸宅から寮へ帰っていくイルファとレフの後ろ姿を見つめながらオズが俺を見上げて聞いてくる。身長差のあるオズと俺は、俺はやや首を曲げなければオズの顔を見つめることができない。  一方のオズも、俺の顔を見るためには首を持ち上げて見上げなければならない。  俺は辺りに人の気配がなくなってから、オズの肩に手を添えた。 「ああ。特にたいした話はしていない。レフの自己満足な会議だからな」 「そ、そうですか……」  俺に触れられたオズは急に挙動不審になる。辺りを警戒しながら俺の顔を真っ直ぐ見つめた。 「に、にいさま……」  何かを言いかけて口を閉じたオズの前髪を指で優しく梳いてみる。するとオズは顔をゆでダコみたいに紅くさせて口をぱくぱくさせて微動だにしなくなる。 「2回目のおまじないをしなければな」 「えっ?」 「1回目より効果の強いものをしなければ」 「んん?」  オズはきょとんとした顔のまま、俺の動きをゆっくりと見ていた。俺はオズの上唇を少し噛むようにして食む。数秒、オズの反応を見つめて観察する。  オズは微かにびくっと肩を揺らすと、みるみるうちに瞳を潤ませはじめた。泣き出すのではないかと思ったが、涙が零れるほどではなさそうだ。  感極まっている、のか?  もう。自分の気持ちを隠せなかった。オズを目の前にして、触れるなと言われるのは懲り懲りだ。喉が乾いている脱水症状の患者に水の入ったコップを見せて中身を捨て去るようなことは、もう耐えられない。 「さあ。もうおかえり」 「……」  オズは俺から目を逸らすと、声も出せない様子でその場から早足で去っていった。その後ろ姿は、俺の主観も混ざってはいるが主人に褒められた犬のように軽快な歩みに見えた。

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