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第89話 またね、ウルク
その日、すぐにウィル様の近衛兵たちによって寮生のグループ分けが行われた。午後には全ての寮生たちが組み分けられ、辞退する者には今夜中にピシャランテ騎士団寮を去るように言い伝えられていた。
ウルクがその一人だったことには、驚いて息を飲んでしまった。ぼくはレフさんと同じチームになったので、親しい人がいてほっとしていて周りの寮生の様子など目に入っていなかったから。
一度、チーム分けされたぼくたちにも自室で荷物をまとめて待機するよう指示が出たので、ウルクと共に部屋へ戻った。扉を閉めて椅子に腰掛けると、やっと息をつく間を持てた。
無言でベッドに腰掛けるウルクには、いつものお調子者の様子は見えない。顔色も蒼白で、具合も良くなさそうだった。
「ウルク、その……今夜、ここを出ていくの?」
気まずい空気に耐えきれず、失礼かもしれないと思ったが相部屋の友達に別れを告げておきたかった。
「……ああ。そうだな」
力なくウルクが自嘲するように頬を上げる。
「どうして? ズニ国王が逝去されたことは大変痛ましいことだけど、ここで功績を上げれば騎士の道も開かれて──」
「俺にはお前みたいな勇気はない。実家に戻って、小麦を育てる。平民育ちの俺に、騎士なんて向いてなかったんだ」
「……ウルク」
もう、迷いはないという真っ直ぐな瞳と目が合う。その瞬間、この相部屋での思い出が一気に脳裏を駆け巡った。
入寮して初めて会った日の、ばちばちした雰囲気。ウルクがイルファ先輩を連れ込んで、ことに及んでいた夜。口が悪くて、大柄で、いびきも大きい。
けど、少しずつぼくのことを認めてくれて、褒めてくれるようになった。
初めてできた平民の出の友達。友達とまではいかなくても、シャルメーニュの仲間だった。そう思ったら、涙が溢れてきて止まらなくなった。いきなり泣き出したぼくを、ウルクがいつもみたくからかい始める。
「おいおい。これから騎士になるって決めた漢が俺がいなくなるくらいで泣くのか?」
「っひぐ。寂しいんだよ……っ。ぼくは忘れないから。この部屋で過ごした日々のこと。大人になっても絶対。また会えるよね?」
「……馬鹿。お前ならいつでも俺の実家に遊びに来ていいぞ。俺の親父の農場にはロバもいるし、馬も羊もいる。退屈はしないはずだ」
にかっと破顔して笑うウルクにつられて、ぼくも「ふふ」と笑う。
「……ありがとう」
「おう。そろそろ時間だな。馬車が迎えに来た。またな、泣き虫オズワルド」
「……うん。もう泣き虫って言われないように頑張る。またね……ウルク」
荷物をまとめて部屋を出たウルク。その後ろ姿は大きくて頼もしかった。実家の小麦農家を手伝うことに専念するらしい。食べることが大好きで、親もたくさん食べさせていたらこんなにでかくなったと本人から聞いた時、愛されてるんだなとわかった。
また目頭が熱くなる感覚を、水で顔を洗って振り切る。
「もう、泣かない。ぼくは騎士になるんだ」
洗面台の鏡の前で自分に言い聞かせる。
本当の試練はここからだと、本能が理解していた。
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