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第90話 シス王子との初対面

「オズワルド。近衛兵隊長のウィル様がお呼びだ。至急、邸宅に向かうように」 「っはい」  ウルクが去って30分ほどしてから、部屋のドアが開いた。黄金の甲冑を身につけた王族の近衛兵のひとりがぼくを呼ぶ。  ウィル様からお話ってなんだろう……。  そもそも、ぼくのことスウェロニア家の使用人って覚えてるのかな? 最後に会ったのはぼくが小さくて、ハイリと白鳥を見に行った日以来だ。  心臓がドッドっと忙しなく動いているのがわかる。口の中、からからだ。緊張しているのがいやでもわかった。  邸宅には灯りがついていた。ぼくは入口からそっと足を踏み入れた。すると、そこには──。 「オズ」 「にい、さま?」  ハイリが待っていた。それと、その後ろで控えるレフさん、イルファ先輩。ぼくはレフさんに肩を押されて、目の前に仁王立ちするウィル様の前に出た。すぐ隣にはハイリが控えていて、ぼくのことを見守ってくれているようで少し安心できた。  ウィル様は鉄仮面のような無表情なまま、ぼくの身体をつま先から頭のてっぺんまでじっくり見つめてから、ぼくの頭に手を伸ばしてきた。 「っ!」 「オズワルド。大きくなったな」 「っウィル様……! ぼくのこと覚えててくださったんですか?」  よしよし、とウィル様の無骨な手が頭を撫でた。そしてそれはそっと離れていく。 「もう13歳か。ハイリがお前を雪の鉱山から連れ帰ってきた日が頭に浮かぶ。お前のことを弟にすると、俺が止めても言って聞かなかった」 「……ウィル様」  ウィル様の表情は、父親が子を見つめる愛のある眼差しに変わっていた。ぼくはそれが、すごく嬉しくて、また泣いてしまいそうになるから、顔を上げて笑った。 「ここに騎士見習いとして入寮できたのも、奥様とウィル様のおかげです。本当に、育ててくれてありがとうございます」  ぼくは久しぶりにウィル様と話せて嬉しい気持ちで胸がいっぱいだった。しかし、それと同時に後ろに控えていたレフさんとイルファ先輩が動揺しているのがわかって、ウィル様とハイリを交互に見つめて聞いた。 「ウィル様、ハイリ。ぼくのこと、レフさんとイルファ先輩に伝えてもいいですか?」 「ああ。構わない」  ウィル様の許可を得た。ハイリを見れば少し迷うような表情を見せたが、ゆっくり頷いてくれた。  ぼくは事の経緯をレフさんとイルファ先輩に告げた。幼い頃、ハイリに雪の降る鉱山で拾ってもらったこと。そして、スウェロニア家の使用人として育ててもらっていたこと。ハイリを護るため、騎士の道を選びピシャランテ騎士団寮に入寮したこと。  2人は驚きつつも、静かにぼくの話を聞いてくれた。それが心地よかった。絶大な信頼を寄せている2人だから。 「……というわけなんです。今まで黙っていてすみませんでした」  ぼくが深く頭を下げると、その頭をくしゃくしゃとレフさんとイルファ先輩が撫でてきた。 「いいんだ、オズ。今教えてくれただろう。それにしても、まさかオズとハイリが義理の兄弟だったとは……。これで全ての謎が解けた気がしてすっきりしたよ。このことはぼくたちだけの秘密にする」  レフさん納得してくれたみたい。よかった……。でも、全ての謎が解けたってどういう意味だろう? 「そういうことかあ。なんかオズには不思議な雰囲気があると思ってたけど、ようやく合点がいったよー。剣舞大会での活躍も、ハイリの英才教育の賜物かなー? あんなふうに賊に立ち向かうところなんて、ハイリそっくりだもんね」  全てを話しても受け入れてくれた2人に感謝をして、少し場の空気が和らいだ直後。ウィル様がぼくらを見つめた。 「お前たち4人には同じチームになってもらう。それは、シス王子直属の護衛隊としての役割を担ってもらうためだ」 「……護衛隊」  レフさんが顎に手をやり考え込む素振りを見せた。 「具体的にはどのような役割を?」  ハイリがウィル様に聞く。そこには親と子のやり取りではなく、王家一族の近衛兵隊長のウィル様と、その部下になるデューフィーの騎士団長のハイリとの会話になっていた。 「シス王子を護る役割を担ってもらう。わたしの部下の近衛兵たちは、それぞれチーム分けされたグループの長となり暗殺者を捕らえるためパルーアの全土へ派遣する。その結果、シス王子の警護の人数が少なくなる。それを補うのがお前たちのグループだ」 「……それはシス王子もご存知なのですか?」  レフさんの言葉に、ウィル様は深く頷いた。 「ああ。シス王子本人のご要望だ。ハイリ、レフ、イルファ、オズワルド。4人のこのピシャランテ騎士団寮での活躍はシス王子の耳にも入っている。このチームの人選をしたのもシス王子だ」  固唾を飲んでウィル様の言葉を皆が待っていた。 「さっそく紹介しよう。ズニ国王亡き今、パルーア王国の王位継承者となったシス王子だ」 「っ!」  邸宅の奥から現れたのは、白い絹の煌びやかな衣装を身にまとった若い男性だった。歳の頃は20歳前後か。金色の髪の毛は、まるで獅子のようになびき、たてがみのように長い髪の毛は、爛々と光に反射して白く光っている。背中までつくような長髪は、癖毛なのか先端が外側に跳ねている。  宝飾を繋げたベールを額に被り、その下には眩い金色の瞳。切長でアーモンド型。すっと通った高い鼻と、白く白玉のような肌に、血色のある薄くて形のいい唇。  背丈は高く、ハイリと同じくらい。180センチはあるのではないかという、高身長。手足はすらりと長く、服の隙間から見える腰の細さはまるで女性のよう。  歩くたび、しゃらん、しゃらんと額の宝飾のベールが揺れて音を鳴らす。  シス王子はゆったりとした足取りでぼくらを円を描くように観察してから、最後ハイリのもとへ顔を近づけた。 「久しいな。麗しの翡翠の君」  シス王子は低く腹に響くような声をしていた。ハイリの顎を掴み、持ち上げてじっくりとその相貌を見つめている。ハイリは目を逸らし、小さな声で制止させた。 「……お戯れはおやめください」 「なに。俺と獅子狩りをした時に語らった仲じゃないか。つれないな」  ぼくはシス王子とハイリの近すぎる距離感に胸が少し疼いた。痛みを伴うもので、それがなぜかわからなかった。

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