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第98話 いっぱい食べて大きくなります
ぼくはシス王子のことを考えるのは一旦やめて、実戦形式の訓練に集中することにした。
「呼び方は決まったようだな。それではこれより実戦形式の訓練を始める。ハイリ、レフ、イルファ、オズワルド。まずは盾の動きを見せる。シス王子を囲むようにして剣と盾を構えろ」
「はい」
護衛隊のメンバーがそれぞれ立ち位置につく。王子を真ん中にし、4人がそれぞれ正方形の角、つまり頂点に立つ。これならば、前後左右どこからでも敵がやってきてもシス王子を守れる。
「よし。それを基本形とする。では、攻撃の型をやって見せろ。銛の型だ」
ハイリ、イルファ先輩の2人が縦に並びその後ろにシス王子を隠す。右にはレフさん。そして左にはぼくが立つ。超攻撃型の型だ。これは、個人技の剣舞でも見たことがある構えだった。ぼくの力が活かせるかもしれない。
「よし。型の確認は以上だ。これからが本番だぞ。お前たちにはそれぞれ剣戟の相手を用意した。皆、近衛兵の手練だ。存分に特訓してもらえ」
「はい!」
大円庭に散らばりそれぞれの剣戟相手と対面する。皆、屈強な猛者と見た。年代もウィル様と同じくらいで40歳前後。ベテラン騎士たちだ。
「それではオズワルド。参るぞ」
「はい! お願いします」
ぼくの担当になったのはゾエルという大男だった。首元に狼の毛皮を巻いて、筋骨隆々。腕の太さはぼくの頭くらいあるのではないかという規格外の大きさだ。片手でぼくのことを持ち上げ、捻り潰すことだってできそうだ。
ぼくは駆け寄って剣を抜いた。
──タッセル。どうかぼくに力をおくれ。
剣名式でもらった大切なぼくの剣。パルーアの言葉で大木を意味すると、レフさんが教えてくれた。
急所を狙ってゾエルの甲冑の下に剣の先を滑らせるように入れる。けれど、ゾエルは臆することなくその剣先を太い腕で弾いた。その衝撃でその場から押し返される。
付け入る隙がない。まるで身体全体が鋼のように硬く、切れない。
「オズワルド。もう息が上がっているぞ。13歳に百戦錬磨の俺が相手ではまだ早いか」
「っく」
ぼくは安易にゾエルの挑発に乗って、続けざまに剣を突いた。首から上を狙うが、ぼくの身長では腕を精一杯伸ばしてみても剣先がやっとゾエルの顎に触れるかどうかというところだった。
それなら……!
剣を一度腰に収め、低く身構える。身長差を逆に利用してしまえばいい。ぼくは身軽さを活かしてゾエルの無防備なふくらはぎを両腕で掴んだ。そのまま体重をかけ後ろに引っ張る。これで転ばせられたらぼくにも勝機が見えてくる。
「なっ……! びくともしない」
「がはは。流石にウィル様の前で手加減するところを見せるわけにはいかないんでなあ」
「わあっ!」
ぶらーん、とぼくは首根っこを掴まれて戦意喪失してしまった。
「身体がでかくなってからなら、お前にも勝ち目は出てくると思うが、今のひょろひょろじゃ俺を倒すのは無理だな」
「……はい。いっぱい食べて大きくなります」
「がはは。そうするとよかろう」
ゆっくり地面に下ろしてくれるゾエルに頭を下げてから、ウィル様に休憩を取るよう指示を受けたので水をごくごく飲んだ。
これじゃあ大人と赤子の遊びだ。まったく実戦形式の試合になってない。
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