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十九 僕はあなたの人形②
「……っあはは」
触れた唇を離すと、壮史さまが笑った。
何がおかしいのか、壮史さまの瞳に涙が滲んで、目尻を指で拭っている。
ごめんね、とひと息ついて、また僕を覗きこんだ。
「咲君――昨日教えたようにしてごらん。ほら、舌を出して……僕の口の中に入ってきて」
濡れた睫毛の向こうで、壮史さまはただ静かに微笑んでいる。
昨日と違って、壮史さまは僕に触れてこない。それなのに、瞳で捉えたまま、僕を離さなかった。
「怖がることないでしょう。昨日、たくさんしたんだから」
ふと、母の笑顔が瞼に浮かぶ。
血の気が引くのを感じながら、視線に促されるままに、僕は再び壮史さまの唇に唇を重ねた。
ためらいながら、舌先をそっと唇の隙間から差しだす。
僕の舌が壮史さまの中に入ったとたん、何かを壊してしまったような、戻れない場所に自ら踏み込んでしまったような、ぞくりとした感覚に襲われた。
舌先が、壮史さまの舌にふれた。ぬるりと滑る感触。彼の舌が静かに応えるように動いて、僕を絡めとった。
まるで誘導されるように、僕の舌は奥へ、奥へと導かれていく。熱い粘膜の内側に引き込まれながら、息が詰まりそうになる。
思わず首を引こうとすると、壮史さまの手がやっと動いた。僕の腰と頭に両手をやさしく回し、僕を離さない。
「……ん……は、ぁ…」
怖い。
止めさせてもらえない。
――いや、何よりも、昨日より壮史さまを受け入れている自分。そして……顔が火照り、下腹部に熱を感じている自分が一番怖かった。
壮史さまは何も言わない。
けれどその無言が、僕には何よりも重く、淫らに響いた。
息が上手く吸えずに頭がぼやける。膝の力が抜けそうになると、壮史さまの右足が僕の足の間に割入って、僕は扉と壮史さまに挟まれて動けなくなった。
壮史さまの足が、僕の下腹部を圧迫する。
「ぅ……っ」
くちゅ、と音を立て彼の唇が離れると、糸を引いて、涎がひとすじ、僕の下唇から落ちた。
「っはぁ、……はぁ」
「……可愛い」
愛おしそうに両手で僕の頬を包みながらそう呟くと、今度は左耳に口付けを落とす。
舌が、耳のきわを執拗になぞっていた。
水気を帯びた音が、耳の奥で跳ねるたび、背筋がゾクゾクと泡立つように震えた。
「ここ。咲君の、ほくろ」
まるで神経の芯に触れるように、執着して、舌が愛撫してくる。
「あ……っ」
やわらかく吸われたかと思えば、鋭く尖らせて押し込まれ、また甘く包み込まれる。
もう、耳の中が壊れてしまいそうだ――。
「咲君の声、甘くなってきた」
壮史さまの吐息が、濡れた耳に絡んで、泡のように弾ける。
カッと頬が火照り、自分の指を必死に噛む。
耳たぶを軽く噛まれ、舌で転がされる。やがて、穴の内側にまでも舌が侵入してきた。
「ぅ、んん……っ」
喉の奥から声が漏れる。
痛いほど、必死に指を噛みしめる。
そうしないと、自分を手放してしまいそうだった。
「咲君。理性が残ってるなら、そんな顔しないよ」
耳の奥に響く低音。骨の内側まで染み入るような声だった。
感じてなどいない、と僕は必死に顔を振る。その間にも、じゅる、じゅると穴の奥を侵されていった。
「ん、っぅ……」
壮史さまが僕の身体を押すように、右足をさらに割り込ませた。
袴の下、僕の太腿のあいだを強く、ぐっ、と押し上げる。
「あっ……!」
指先が震える。息が荒くなる。
脚のあいだが――熱い。まるで自分のものじゃないみたいに、疼いて、滾って、張りつめていた。
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