21 / 31

十九 僕はあなたの人形②

「……っあはは」  触れた唇を離すと、壮史さまが笑った。  何がおかしいのか、壮史さまの瞳に涙が滲んで、目尻を指で拭っている。  ごめんね、とひと息ついて、また僕を覗きこんだ。 「咲君――昨日教えたようにしてごらん。ほら、舌を出して……僕の口の中に入ってきて」  濡れた睫毛の向こうで、壮史さまはただ静かに微笑んでいる。  昨日と違って、壮史さまは僕に触れてこない。それなのに、瞳で捉えたまま、僕を離さなかった。 「怖がることないでしょう。昨日、たくさんしたんだから」  ふと、母の笑顔が瞼に浮かぶ。  血の気が引くのを感じながら、視線に促されるままに、僕は再び壮史さまの唇に唇を重ねた。  ためらいながら、舌先をそっと唇の隙間から差しだす。  僕の舌が壮史さまの中に入ったとたん、何かを壊してしまったような、戻れない場所に自ら踏み込んでしまったような、ぞくりとした感覚に襲われた。  舌先が、壮史さまの舌にふれた。ぬるりと滑る感触。彼の舌が静かに応えるように動いて、僕を絡めとった。  まるで誘導されるように、僕の舌は奥へ、奥へと導かれていく。熱い粘膜の内側に引き込まれながら、息が詰まりそうになる。  思わず首を引こうとすると、壮史さまの手がやっと動いた。僕の腰と頭に両手をやさしく回し、僕を離さない。 「……ん……は、ぁ…」  怖い。  止めさせてもらえない。  ――いや、何よりも、昨日より壮史さまを受け入れている自分。そして……顔が火照り、下腹部に熱を感じている自分が一番怖かった。  壮史さまは何も言わない。  けれどその無言が、僕には何よりも重く、淫らに響いた。    息が上手く吸えずに頭がぼやける。膝の力が抜けそうになると、壮史さまの右足が僕の足の間に割入って、僕は扉と壮史さまに挟まれて動けなくなった。  壮史さまの足が、僕の下腹部を圧迫する。 「ぅ……っ」  くちゅ、と音を立て彼の唇が離れると、糸を引いて、涎がひとすじ、僕の下唇から落ちた。 「っはぁ、……はぁ」 「……可愛い」  愛おしそうに両手で僕の頬を包みながらそう呟くと、今度は左耳に口付けを落とす。  舌が、耳のきわを執拗になぞっていた。  水気を帯びた音が、耳の奥で跳ねるたび、背筋がゾクゾクと泡立つように震えた。 「ここ。咲君の、ほくろ」  まるで神経の芯に触れるように、執着して、舌が愛撫してくる。 「あ……っ」  やわらかく吸われたかと思えば、鋭く尖らせて押し込まれ、また甘く包み込まれる。  もう、耳の中が壊れてしまいそうだ――。  「咲君の声、甘くなってきた」  壮史さまの吐息が、濡れた耳に絡んで、泡のように弾ける。  カッと頬が火照り、自分の指を必死に噛む。  耳たぶを軽く噛まれ、舌で転がされる。やがて、穴の内側にまでも舌が侵入してきた。 「ぅ、んん……っ」  喉の奥から声が漏れる。  痛いほど、必死に指を噛みしめる。  そうしないと、自分を手放してしまいそうだった。 「咲君。理性が残ってるなら、そんな顔しないよ」  耳の奥に響く低音。骨の内側まで染み入るような声だった。  感じてなどいない、と僕は必死に顔を振る。その間にも、じゅる、じゅると穴の奥を侵されていった。 「ん、っぅ……」  壮史さまが僕の身体を押すように、右足をさらに割り込ませた。  袴の下、僕の太腿のあいだを強く、ぐっ、と押し上げる。 「あっ……!」  指先が震える。息が荒くなる。  脚のあいだが――熱い。まるで自分のものじゃないみたいに、疼いて、滾って、張りつめていた。  

ともだちにシェアしよう!