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第2話
高堂くんのアプリでの年齢は21歳になっていた。
次にあったのはカフェで、そのことについて話した。
「高堂くん、21歳になってたけど、大学生?」
「え、うん」
「そっか。じゃあ1歳年下だ」
「そう…、だね。
あ、タメ口いや?」
「そんなことないよ」
なんか高堂くんの歯切れが悪い気がしたけれど、あんなことがあった割にちゃんと話せてる!
あれだけで関係が終わると思っていた俺はホッとしていた。
「高堂くんは、よく…、その、ああいうことするの?」
俺は思い切って聞いた。
だって、自分が彼の中でただのセフレだとしたら、虚しすぎる。
恋人や友達が欲しいんだ、俺は。
「あ〜、うん。
まあ。若いからね」
彼はなんでもないことのようにずずっとコーラを啜って笑った。
コーヒーも紅茶も飲めないらしく、クラフトコーラを頼んだ高堂くん。
こんなに性格が可愛いのにタチなんだもんな。
俺としては有難いけれど。
「そっか」
「文(ふみ)くんは初めてだったよね?」
「えっ…、やっぱり分かる?」
「流石にね。その辺の初めての人より、圧倒的に挙動不審だったよ。そこが可愛かったけど」
と、高堂くんはケラケラ笑った。
年下に笑われるなんて恥ずかしかったけれど、高堂くんみたいなモテる人に笑われても、怒りなんて湧かなかった。
その日は、なんだかんだとダラダラその辺を歩き回り、「疲れたよね」と言い合って、結局ホテルに向かった。
で、案の定やりました。
あんなにセフレは嫌だと思っていたのに、初めてシタ時の気持ちよさと、高堂くんに嫌われたくなくて断れなかったのと、なんか色々ぐちゃぐちゃで、俺はどんどんセフレに成り下がった。
あまりの頻度で会うので、お互い「ホテルは財布に厳しいよね」という話になり、どちらかの家に行くことが常になった。
と言っても、高堂くんが電車に乗るのを面倒くさがるので、基本的には俺が行くことが多い。
し、彼があまりに生活能力が低いので、俺が掃除なり飯を作るなり世話を焼いている。
「通い妻って感じ」
と、オムライスを作ってる俺を眺めながら高堂くんが言った。
彼は手伝うなんてことはしない。
一度、「流石にみてるだけは悪いから」と言って手伝ってくれたが、見事に指を切ったので俺からお断りした。
「妻?俺が?…、全然そんな感じじゃないけど」
俺は確かに背はそれほど高くないけど、華奢ではない。
地味な普通の男って感じだから、妻という表現がしっくりこない。
っていうか、高堂くんよりは家事ができるってだけで、世間的に不慣れなほうだと思う。
でも、妻という表現に照れてしまい、少し突き放したような言い方になった。
「そう?似合ってるよ」
ニコニコしながら俺を見る高堂くん。
いつからだろうか。
そんなやりとりとか、家事をやってあげたりとか、そんなことも無くなった。
今では「家行っていい?」と俺から聞いて「鍵開いてる」と返事が来るか、
あっちから「〇時に来れる?」と連絡が来る(俺から断ることはまずない)。
そして、部屋に入ればすぐに抱かれて帰るだけ。
マジでただのセフレ。
ヤったらその日に帰ると言い始めたのは俺だ。
だって、俺は高堂くんの恋人じゃないのに朝まで家にいるなんて…、鬱陶しいし。
初めは「泊まっていいのに」とか「帰るの?」とか聞いてくれて、玄関まで送ってくれていたのに。
最近は俺が「帰る」と言っても返事はないし、さっさと寝てしまう。
その背中を見るだけで心が痛くなる。
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初めて彼の家に行った時。
不意に机の上の学生証が目に入った。
有名難関国公立大学の名前に目玉が飛び出した。
めっちゃ頭いいんだ!?
なんとなく、キラキラしてるから、有名私立大とかだと思ってた。偏見だけど。
このビジュにこのトーク力で、さらには高学歴って…、高堂くん何者?
そして生年月日を見て首を傾げた。
あれ?俺の生まれ年より3年遅い…?
「高堂くん、今何歳だっけ?」
「じゅ…、あ」
「…」
「…」
お互い無言で見つめ合う。
そうだよね、君、今年でやっと20歳になるよね。
つまりは…、サバを読まれていた。
「高堂くん、お酒飲んでたよね」
「そうだっけ?」
それはそれで大問題だから「そんなことより」とは言えないんだけれど、
そんなことより!
社会人が19歳に手を出すってどうなんだ?
いや、高校生じゃないから犯罪ではないけど、なんかこう…、犯罪臭するよね。
そんなことを彼に言うと
「別に…、文くんが19のガキに会いたくないってんなら、会わなくてもいいけど?」
と、不貞腐れたように言った。
高堂くんに会わない…、それは、とてもすごく嫌だ。
だってせっかく…、せっかく?
そうだ、せっかく年が近いゲイ…、じゃなかったバイに出会えたのに!
彼を逃すのは惜しいと感じてしまう。
って言うか、ちょっと高堂くんのことを好きだと思ってしまっているし。
「いや…、それは…」
「いいよ、俺は」
「うぅ…、お酒とかヤるのとか無しなら」
「ヤるのはいいじゃん。俺、大学生だよ?」
「むむむ…、とにかく、飲酒はだめ!」
「…、はいはい」
と、まあ高堂くんは全然反省はしてないけれど、俺の目が光っているうちは飲酒はしなくなった。
今考えれば、この時に「やる」ほうもちゃんと規制しておけば良かった。
そしたら、今頃、セフレなんていう関係にはなっていないだろう。
本当に爛れた関係になってしまった。
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