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第6話
それから、俺は泊めてと言い出すのが恥ずかしくて、なるべく翌日が平日の日に会いに行くようにした。
それでも、金曜や土曜に誘われると、断り切れず、2度ほど泊まった。
2回とも朝食を作ってくれて、どんどん腕前が上がっているのを感じた。
3回目は美味しくて手の込んだ和食が出てきた。
褒めると、「みそ汁は昆布で一番だしを取って作った」と言っていた。
俺でもそこまでしたことはない。
いつの間にか料理スキルを追い抜かれてしまったみたいだ。
卵焼きも少し焦げていたけれど、綺麗に巻けていた。甘い卵焼き。
俺は出し巻きみたいなしょっぱいのが好きだけど、きっと彼の好きな人は甘いのが好きなんだろう。
「どんどんレパートリーが増えてるね」
「時間あるときはなるべく作るようにしてるから」
「そっか」
「でも、食べる人がいる方が張り合いがでる」
「そう」と言って俺は無理やり笑顔を作った。
1番食べさせたい人は、俺じゃないくせに。
「だから、文くんに時間がある日は食べてに来てほしいんだけど」
「う、うん。でも、お金もかかるし、毎回は悪いよ」
と、俺は何とか断る理由を探した。
っていうか、もう練習とか要らない気がするし。
「じゃあ、たまに文くんが作るとか?」
「高堂くんが作ったものと比べられるのはちょっと…」
「別に比べないけど…
じゃあ、たまに外食奢ってよ」
そう言われて、俺は”外でのデートを誘う”というタスクを思い出した。
これ、チャンスなのでは!?
「それならいいよ。つ、ついでにさ、どこか行っても良い?
映画館とか水族館とか」
そう言うと、高堂くんは露骨に驚いた顔をしていた。
やっぱり…、ダメか。
「いや、ごめん。冗談だよ。
外食も出前とかで…」
「行く」
「え?」
「水族館も映画も行く。
でも、文くんは良いの?」
「あ、ありがとう。良いって何が?」
「ゲイばれしたくないって前に言ってたから、俺と外でデートなんてしちゃっていいのかなって」
と、高堂くんは頭を掻いた。
俺、そんなこと言ったっけ?と思いつつ、俺は慌てて補足する。
「いや、デートってわけじゃないし!
周りも、男2人で歩いてたところで、デートだとは思わないよ!」
あくまで、外で遊ぶだけだと伝える。
俺なんかが高堂くんとデートだなんて烏滸がましい勘違いはしない。
「…、男女でも同性同士でも、2人ならデートでしょ。
俺たちだって変わんないじゃん」
「え、そ、そう…、なのかな?」
急に高堂くんが不機嫌になったため、とりあえず反論するのを止めた。
まあ、俺としてはどんな名目でも構わないけど。
「いつ空いてるの?」
「え?」
「文くん、いつも予定入ってるから。
いつなら1日空いてるの?」
そんなことないけど…
友達もいないし、会っているのも高堂くんだけだし、どちらかというとプライベートの予定は高堂くんの方が忙しいはず。
「え、っと、土日ならいつでも…」
「じゃあ今月の25日は?」
「25日…、あ、ごめん。
その日は予定が…」
そう言うと、彼にじとーっと睨まれた。
その日はきょんちゃんが来るから、空けなきゃいけない。
「じゃあ、来月の1日」
「そ、その日なら空いてる!」
「じゃあ、約束。絶対他の予定入れないで」
「入れないよ!先約優先するし」
と俺が言うと、疑り深い目で俺を睨み下ろす。
最近はまた少し会話が増えたな~って思っていたけれど、やっぱり怖い顔されるとまた会話もせずにやるだけの関係に戻りそうで不安になる。
俺が怯えながらその目を見ていると、不意に抱き上げられ、ベッドに連れていかれて押し倒される。
朝ごはんも終わったし、帰ろうかと思ってたんだけど…
「もっかいシたい」
甘えるように俺の首にグリグリと頭を擦りつけながら、高堂くんが言った。
「え、で、でも帰らなきゃ…」
「…、だめ?」
そう甘えた声で言われると、俺に断る術はなくなる。
「手加減してくれるなら…」
「ごめん、無理」
せっかく早朝に朝飯を食べたのに、散々弄ばれて、彼の家を出るころにはとっくにお昼を過ぎていた。
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