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第7話

来たる〇月25日。 俺はきょんちゃんが指定した居酒屋の中で待っていた。 初めてきょんちゃんに会う。 一体どんな人なんだろうか… 緊張してひたすらメニューの同じページを凝視していた。 「こんばんわ。あんたが文?」 ずっとメニューを眺めていた目を、声の聞こえてきた方向へ向ける。 長身の、外国人かと見紛うほどのエキゾチックな顔をしたオネエが俺を見下ろしていた。 「え!きょんちゃん!?」 「そうよ」そう言いながら、きょんちゃんが目の前に座る。 声も低いし、オネエってことは分かっていたけれど ”きょんちゃん”なんて名前だから深キョンみたいな可愛い感じの人だと思ってた。 どちらかというと…、ミッツさんだ。 でも、めちゃくちゃ美人ではあると思う。 九州のお店が繁盛しているって言ってたけど、きょんちゃん目当ての人も沢山いるだろう。 きょんちゃんが料理をてきぱきと頼んでくれて、乾杯をした。 サワーをちびちび啜っていると、きょんちゃんが「あんた、全然しゃべらないわねぇ。別人?」と口火を切った。 「だって、きょんちゃんが美人だったから緊張したんだよ!」 俺がそう言うと、彼いや彼女が溜息を吐く。 「ほんと、あんたをうちの店に連れて行かなくて良かったわ。 今頃食われてたわよ」 「それもまた経験なのかな」 俺がぼそりと呟くと、きょんちゃんが「はぁ?」と鬼の形相になる。 「あんた、娼婦にでもなりたいわけ? 自分を安売りするのはやめなさい。 あんたは安売りするほど落ちぶれてないんだから」 「ごめんなさい」と、彼女のあまりの剣幕に謝った。 「そんなに自暴自棄になるほど上手くいってないの?」 ときょんちゃんに聞かれ、俺はこないだまでの経緯を話した。 「ふ~ん…」 長々と話したのに、その返事だけだったため「それだけ?」とつい声に出してしまった。 「それだけって言われてもねぇ。 彼氏ヅラムーブは全部受け入れられてるじゃない。もう告白しちゃいなさいよって思うけど」 「話聞いてた!? 高堂くんは、振った相手をまだ好きなんだよ!」 「あんた…、ギアがかかって来たじゃないの。 今日は物理的に殴れるんだから言葉には気をつけなさいね」 と、きょんちゃんは逞しい腕に力を込めた。 ヒィィ…、見た目は強そうな女性なのに、腕はちゃんと男だ… 「あんたを結構な頻度で家に招いてるし、ひいては外でのデートもOKなんでしょ? 他に好きな相手なんていなさそうだけどねぇ」 「いるよ、絶対にいる! それに、高堂くんの顔を見たらきょんちゃんも納得する。 全く以って俺と釣り合ってない! すみません、お代わりください!!!」 啖呵を切るついでに、通りかかった店員さんに声かける。 困惑している店員さんにきょんちゃんが「ごめんなさいね。この子にレモンサワーと、私に麦のロックを頂けるかしら」と補足した。 それから、結構ハイペースで飲み、お店を出るころにはきょんちゃんに支えてもらわないといけなかった。 「あたし、2丁目に行きたいって言ったわよね!? こんな状態の男の子を連れて行けるわけないんだけど!」 俺の肩を支えながら、きょんちゃんが悪態をつく。 「どっかに捨てて行こうかしら」と。 でも、きょんちゃんは優しいからなんだかんだで捨てたりなんかしない…、よね? 「ちょっと携帯貸しなさい」と言われ、俺はのろのろと携帯を渡す。 「あんたロックくらいかけなさいよ、もう」と、文句を言った後、どこかに電話をかけ始めた。 その間に眠くなってきて、俺は逞しいきょんちゃんの胴に腕を回して体重を預けた。 「ちょっと、こんなとこ見られたら言い訳できないわよ!? あたしヒール履いてるんだから、体重かけるなってば!もぉ~~~~」 何やらきょんちゃんが吠えているけれど、どうでもいい。 ふわふわするし、今すぐ布団に潜り込みたい。 そうやって、飲み屋街の真ん中で立ちすくんでいると「すみません」と声がした。 「あら、あなたが…? 本当にとんでもないイケメンを捕まえたのねぇ。 あたしがきょんよ」 「聞いてます。 地元にいたころからのゲーム友達だって。 …、男性だとは思いませんでしたけど」 「やだぁ、あたしの心は女よ」 意識の遠くの方できょんちゃんと誰かが話す声が聞こえる。 もう、誰だか知らないけど、俺は早く帰りたいんだってば。 それで、きょんちゃんを揺する。 「ちょっと、ヒールだっつってんでしょうが! もう、早く離しなさいよ、文之助」 聞き捨てならない名前が聞こえて、彼女から体を離す。 「その名前で呼ぶなってば! きょんちゃんだって恭次郎じゃん」 ムッと彼女を見上げると、「あんたって子は…」とため息を吐いた。 グイっと声の主に手首を引かれて、俺はそいつに目をやる。 誰だよ、俺の手を掴むなってのと睨み上げる…、が 「た、高堂くん!? えっ、え!?なんで??」 俺は困惑して叫ぶ。 だって本当に何でこんなところに!? 「…、帰るよ」 低い声で高堂くんが言うと、すごい速さで引っ張られる。 「ちょっ、足元がおぼつかないからゆっくり」 というと、彼がため息を吐いて俺を抱き上げた。 「えぇっ!?」 違う!そういう意味じゃないんだけど! 助けを求めるようにきょんちゃんを見るが「ちゃんと話し合いなさいね」と手を振っていた。 っていうか、さっき携帯借りたのって…、高堂くんを呼ぶためか! はめられた!と、歯ぎしりをする。 「ねえ、高堂くん、俺歩けるよ」と、声を掛けたが「すぐそこにタクシーあるんで」と一蹴された。

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